Y.隣室(5分)

アパート暮らしをしていたYさんの隣の部屋の人間が自殺したそうだ。

一人暮らしだったそうだが、彼女自身は顔も合わせたことがない相手だった。その日は丸一日、救急車だの警察だので廊下が慌ただしかった。

しかし夜も更ける頃、大家が困ったようにYさんの部屋を尋ねた。

「ちょっと見てくれませんか」、と。

隣の部屋に足を踏み入れてYさんは唖然とした。

その部屋は家具から小物に至るまで、完全にYさんの部屋と同じものが同じ配置で置かれていた。本棚に埋まった文庫本の並びまでまったく同じだった。

Yさんの部屋との境の壁には血か糞尿かもわからない液体で、Yさんのフルネームがびっしりと書き尽くされていた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る