X.下着ドロ(30分)
Xさんは学生時代、都内の賃貸マンションの七階に一人暮らしをしていた。
「女の子だからセキュリティのしっかりしたとこにしとけって言われて、親が決めたその部屋に上京と同時に住み始めて、最初のうちは特にトラブルもなかったんですけど」
しばらくして下着を盗まれる被害に悩まされるようになったという。
「盗まれるだけじゃなくて、残された他の衣類にも獣っぽい毛が擦り付けられていたりしてて」
とにかく気味が悪かったという。
「何せよくよく考えてみると、うちのベランダって七階ですから」
わざわざ誰かがよじ登ってくるとも考えにくく、最初は風に飛ばされたのかと思っていたそうである。しかし靴下やハンカチも同じように干してて、盗まれる品が下着だけという事態が続き、はっきりそこに人の悪意を感じた。
「なら室内に干せばいいじゃない」
「洗濯物が自室に干してあるっていうのが嫌で、それは最後の手段のつもりでした。そもそもどうやって盗ってるのかも気になって……ほら、ベランダに入れるってことは室内に入ってくるまでもあと一歩ってことでしょ」
ビデオカメラを用意して、ベランダを撮影し始めたそうである。
朝に洗濯物を干して登校し、バイトから帰宅する深夜に確認した。
「数回は空振りが続きましたけど、五回目くらいに洗濯物見たら盗まれてて」
慌ててその日のビデオを巻き戻し、確認したそうである。
「長い手が映っていました」
それはベランダの上階の方から伸び、多関節に曲がりながら器用にXさんの洗濯物を撫で回していたという。
部屋の天井は決して低くないから、曲がってるのも相まって、その腕の長さは目測でもゆうに3メートルほどはあり、猿のように毛だらけだった。
「馬の足って、踵がすごく高い位置にあるじゃないですか? あんな感じで、腕とは言っても指の付け根から手首までがすごく長くて、手首から肘までもすごく長いって具合でした」
機械かロボットじゃないの、と尋ねたところXさんは首を振った。
「私もこんな生き物いるわけないと何度も見直したんですが、動きなんかが明らかに生き物特有の生々しさで、でもそんな気味の悪い動物なんて聞いたことないから」
予想を遥かに越えた事態を目の前に、どうすればいいのか途方に暮れたという。
念の為、真上の部屋も尋ねてみたが空き部屋であった。
「大家さんに言って、部屋のなかも見せてもらいましたけど、変なとこなんてなくて」
ただ、ベランダの見えにくい四隅にシールか何か貼がされた跡があったそうである。
「もしかしたら御札だったのかもしれません」
結局背に腹は変えられず、Xさんは渋々、下着のみならずすべての洗濯物を浴室内に干すようにしたという。
そうすることで事件は一応解決したかに見えた。
「ところが数日ほどたったある夜中に、バンって窓を叩くすごい音で起こされて」
Xさんはカーテンを開け放した。
窓には毛混じりの血で大きく『呪』と逆さまに書かれていた。
「化け物も人間の下着でムラムラしたりするんですかね……」
彼女はそのあとすぐに引っ越して、今は浴室に自動乾燥機のついた部屋で暮らしているという。
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