Z.無言電話(20分)
Zさんは数年前、無言電話に悩まされていたという。
「ちょうどその時期が、彼氏とも大喧嘩して実家に帰っていた頃とかぶってて」
同棲し、婚約さえしていた彼との喧嘩は、ほとんど別れ話も同然に思えて、最悪なメンタル状態だったという。
そんな彼女へと追い打ちをかけるように、その電話は家族がいない時間帯を見計らって、実家へと直接かかってきていた。
「まったくの無言ってわけでもなく戸惑ったような息遣いとかはあって、掛けて来ているのが女だなっていうのは何となく雰囲気でわかりました」
色んなことが、この電話のせいで上手く行かなくなっている気がした。思わず。
「もういい加減にしてよ、って怒鳴ってました」
電話口の相手は怯えたような息遣いのち、絞り出すように。
お母さん、と。
幼い声でそう呼ばれて、気付けば彼女はぼろぼろに泣き崩れていた。
電話はいつの間にか切れていた。
「妊娠してたんです、その時の私」
意図せずできてしまった子だった。いずれ産みたいと考えてはいたが、当時のZさんも彼もまだ経済的に未熟で、きちんと育ててあげられる自信がなかった。
「彼との喧嘩の原因も、産む産まないって。両親にも相談できなくて、自分だけが堕ろすつもりで」
そんな時に掛かってきた無言電話だったのだという。
「お腹の子が未来から掛けてきたのかもしれないと思うと、つまらない意地を張っていた自分が情けなくて、それでようやく決心が付きました」
彼氏と深く話し合った。それから二人で互いの両親へと頭を下げ、必ずいつか返済するからと、援助を申し込んだという。
「病院で絶対女の子だって言ったから、彼は驚いていましたね」
そう微笑む彼女の腕には先月ちょうど一歳になったばかりの娘が抱えられたまま眠っていた。
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