第5話 変化。

 グループに戻ると、みんながユキの変化に気がついていた。

僕は女にハサミを返すが、全員が無言でユキを見ている。


 最初にグループに紹介した時は、他のグループからはぐれてしまった身寄りの無い可哀相な少女だった。

しかしもはやその枠を超えてしまっている。


 少女というにはあまりに熟している。

彼女は一分一秒ごとに変わっていくことに、僕は気がついてしまった。

髪や爪はそのままだが、彼女は確実に成長している。ありえない。


 それでも僕はこの状況をなんとかしなければならない。

ユキの手を引いて、使われていない住居に入る。

「どうしたの?」 

 声までも少し変わっている。

僕は途方に暮れた。一体何が起こっているんだ。

彼女は何者だ?どうしてこんな急激に背が伸びたんだ?

 それでも困惑を顔には出さずに笑う。

「なんでもないよ。夕食、君の分ももらってくるから待ってて」

「うん。ありがとう」

 手を振って笑う彼女。

胸が痛かった。


 僕はリーダーと話さなければならないため、配食場まで行く。

どう説明すればいいのかはわからない。

しかし相談するしかない。


 僕が現れると、みんなの動きが止まる。視線を一身にうける。

覚悟はしていた。僕は言わなければならない。

「話、いいですか」

 リーダーが食事をちょうど終えた所に話しかける。

向こうもわかっていたらしく、食器をあずけて人の居ない方へ向かう。

少し歩くと、古く煙たいテントの前で立ち止まる。

お互い無言のまま。


 しかしこのテントの中の人物は知っている。

このグループの中で、代々伝承係を勤めている一族だ。

香の匂いが鼻につく。

「相談がある」

外からリーダーが声をかける。

「あんたらが来るべきなのは今日じゃないよ」

 しばらくし、しわ枯れた声が返ってきた。

 

 二人で顔を見合わせる。

そう言われても聞かなければならないことだ。

どうするかと戸惑っていると、中から答えが返ってくる。

「明日おいで」


 そう言うと、明かりを消してしまう。

真っ暗になってしまった。

取り付く島も無い。

 しかたがなく、僕とリーダーは明日再び訪れるよう決めた。


そして、僕は後から後悔することになった。






 次の日、僕は悲鳴で目がさめた。

隣で寝ていたユキの叫び声に飛び起きる。

どうかしたのかと慌てると、そこには僕の知らないユキがいた。

「どうして?おかしいよね、変だよね?」


 そう言い、おろおろと困り果てている女性がいた。

二十代の大人のユキ。服から手足が長く伸び、顔つきも変わっている。


 すんなりとし線が細く、肌の白い美女。

大人が無理に子ども服を着たようないでたちだ。

へそが出てしまっている。胸元は窮屈そうだ。


 さすがに僕は言葉に詰まる。

いくらなんでもユキの変化は早すぎる。

「私、他の人と違うみたい」

 両手を見つめながら、声が震えている。不安を隠せない。

僕も動揺してしまう。

「そんな事ないよ」

 気楽に言ってみせる。

嘘をついた。みんなゆっくりと年をとる。


 こんなにも急激な成長をする人など見たことも聞いたこともない。

そして彼女の変化が恐ろしい事に繋がることに気がついてしまう。


 このまま成長を続ければ、彼女は……。

それとも丁度大人になった所で成長が止まるかもしれない。

淡い都合の良い期待を持ってしまう。

 一晩での変化に戸惑うが、僕はユキを落ちつかせる。

「今日、君のことを相談に行ってくるから安心していて。外には出ちゃだめだよ?」

 無言でユキは何度もうなずく。

ユキを一人にするのは心苦しかったが、今の状態で外に出るのはまずい。


 僕は朝食を取りに行き、大人の女性用服が欲しいと申し出た。

不審な目で見られたがそれどころではない。

渡されたぼろぼろの服と食事を持ち帰る。

「お帰りなさい」

「ただいま」

 笑顔でむかえてくる。

ずっと一人だった僕は少し嬉しくなってしまう。


 服を渡し、僕はいったん外に出る。

着替えたよ、と中から聞こえる。


 正に大人の女性だった。

僕よりも一回り以上年上にしか見えない。

「ご飯だべよ」

 耳障りの良い綺麗な声。

僕はなんとなく目のやり場に困る。

「そうだね」


僕は誤魔化しながら、朝食をかきこんだ。

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