第2話 出会い。



 僕はすることもとくに無く、いつもぼんやりと森ですごしていた。

ここの所、ずっとこうしている。

岩に腰かけ、ただ何も考えずに眺めているだけ。

危険ではあったがいつのころからかグループの中に居辛いと感じるようになった。

両親は死んでしまった。姉は他のグループの人間と結婚し、出ていった。

ひとりぼっちになった僕を真剣に心配するものはいない。


 廃墟が森に飲み込まれている。

ビルや道路は草木に覆われ、眼下は緑でうめつくされていた。


 人類はもはや種族存在が危機的段階にまで追い詰められている。

他の動植物たちは様々と進化し続けるのに対し、人は退化していくばかりである。

いずれ猿に戻るのかな。などと考える。


 それも悪くはない。

森の中を自由に駆け抜けられる。

ただ生きることを考えるだけでいい。羨ましいものだ。

ふざけた考えに笑いがこみ上げてくるが笑えない。


 人類は過ちを犯しすぎた。

天罰が下った。

それは何百世代にも人類を苦しめる呪いとなった。

データベースに残っていた資料を基にした情報なので本当かどうかは知らないが。

祖先は戦争というものでほぼ死に絶え、僅かに生き残ったのが僕らである。


 人間が人間を殺しあっていたなんて想像がつかない。

喧嘩をすることはあっても、殺したりなんかしない。

そんなことをするのは低脳な動物たちだけだ。


 この岩の下にも何百という数の人が埋まっているはずだ。

何度も壊し、何度も造り、何度も壊された。

この星はきっと人間の骨で出来ているに違い無いと思う。

そんなことをみんなの前で言えば殴られるだろう。

だからここに一人ひっそりとたたずんでいる。

群れに慣れられないはみ出しもの。

帰っても誰も待っていてくれているわけでもない。

それでも生きるために、一生懸命群れるしか道は無かった。


 後ろに気配を感じ、慌てて腰銃に手をやる。

そのまま後ろを振り返ると、そこには見知らぬ人間が立っていた。

それも少女だ。

知らない顔である。

違うグループの人間だろう。

はぐれてしまったのだろうか。

ふらふらと歩く足元は土で汚れている。

 少女は乾いた唇を僅かに動かし呟いた。

「水……」

僕は唖然とし、とっさに答える。

「川ならすぐそこに」

 と、指差そうとした瞬間、ぐらりと少女の体が傾く。

僕は慌てて少女の体を受け止める。

声をかけてみたが反応が無い。

しかたなく見知らぬ少女を背負い、小さな川辺へ向かう。

とても軽かった。

とにかくあわてていて、何も考えずに走った。

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