一息
到着してラングルが開口一番、リュミルたちを労った。
「まさかここに情報源があるとはな! でかしたリュミル、ここに寄って正解だったな」
「偶然です、それにあれにはあまり期待しないほうがいいですよ」
盗賊はおそらく村人が消え去ったあとにここを占領している、つまり犯人について目星があるとは思えないのだ。
リュミルはすでにゴッグルを連れてきており、後ろ手に縛られたそれがラングルの前に歩かせられる。周りを団員が囲んだ中で、ラングルは家屋から椅子を取ってきて前に座る。ゴッグルも地面に座り込み、憮然としてラングルを睨みつける。
「なんじゃあ、こっだら集まってからに」
「お喋りする気はねえ、聞きたいことをちゃっちゃと話せ。俺はお前の命にこれっぽちも興味はないからな」
「そりゃあひでえってもんだが、なにが聞きたいか知らんが、オラになに用がじゃ」
特段隠す様子もないゴッグル。この時点で期待が薄れるが、諦めず尋問するラングル。
「まずだが、この村を襲ったのはお前らか?」
ゴッグルは首を横に振る。
「いんや、オラたちが来たときにゃあここは空っぽじゃった」
「誰がやったかは?」
「知らん」
素直な返事。
「だろうな……、なら家畜はいたんだな?」
「そうじゃ、いい稼ぎになっただが」
嬉しそうに胸を張るゴッグル。コロコロと変わる表情は子供のようだ。無邪気に殺し奪う、たちの悪さが持ち味である。
「なら最後だ、ここに来て変わったことはあったか」
「変わったことー? ……なんがあったかろうか」
うーんと唸るゴッグル。ことのほか真剣に悩み、頭から湯気が出てそうだった。やがてハッとしたように顔を上げ、手をぽんと叩く。
「ああそうがや、ここに来たときだがな。オラ含めみーんな“戻しちまって”な、ここに来てはしゃいだからかなとも思っていたが、ようく考えればありゃあおかしかったなあ」
「吐いた、病でも流行ったのか……?」
周りもざわつく、そうだとしたら今すぐ離れたほうが良い。しかしゴッグルたちが生きていられたのだからすでに無くなっているのか。
「誰かが言う取ったな、なんや息が詰まるとか……」
「息が……」
「リュミル、どうした? なにか心当たりでもあるのか」
「はい」
リュミルもここに来たとき、僅かではあったが息苦しさを感じた。今は感じないので気のせいだと思っていたが、これが集団失踪と関係があるのか。
しかしラングルは頭を振る。
「わからん、こういうのは俺に向いてねえな。やっぱり」
そう言い周りを見るが、誰もわからぬと言った様子だ。
「まあいい、ここになにか異常があったのは間違いなさそうだ。これを依頼主に話せば少しは金になる……、か?」
「金!」
ゴッグルが反応した。しかし自分の立場を思い出したのか悄気げる。
ラングルは少し考えたのち、部下にゴッグルの縄を切らせた。
「……いいのか?」
「別にお前を捕らえるなんて言われてないし、なによりまだ依頼が残ってる。お前に食わす飯も無い、殺してもいいが剣が勿体ねえ」
「そらラッキーだわな」
そう言うとゴッグルは立ち上がりそそくさと離れていく。
それを見送ることもなく、ラングルは仲間に話しかける。
「ようし、リュミルが言っていた隠し食料を回収しろ。それが終わり次第オジンに向かうぞ!」
号令をかけるとぞろぞろと散っていく。リュミルも取りにいくがラングルに呼び止められた。
「つまらなさそうだな」
「――そんなことは」
「隠さんで良い、そのうち見つかるだろうよ。お前が期待しているような戦士が」
それが慰めだとリュミルにもわかる。だがあえてそれをしてくれるラングルの優しさに笑みが溢れる。
「案外、オジンに達人がいるかも知れないぞ?」
「まさか!」
二人で笑い合う。他愛ない冗談、だが普段冷静なリュミルが破顔したのは珍しい。それだけ思い込んでいたのだと自覚し、あらためてラングルに感謝したリュミル。
そうして荷物を回収したので、一同は依頼されたうちの最後の村であるオジンを目指し出発した。
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