第12話 アイカツ
俺と社長と大越だけでいいといったのに、歌山とヘラまで一緒に行くと言い出した。申し出はありがたいが、話を掻き回す悪い予感しかしない。断ろうにも押し切られてしまったため、なし崩し的に仕方なく車に乗せることにした。
目的地の大越家は大きな日本家屋だった。玄関を開いた途端に門前払いされると思っていたが、大越と瓜二つの母親らしき人物が家の中まで案内してくれた。
案内された応接間は和室として十分すぎるほどの広さがあり、その上座には大越浩太さんが荘厳な佇まいで座っていた。服の上からでも見て分かる隆起した筋肉に、額の深い十字傷は社長に負けず劣らず怖い顔である。だが俺も気迫で負けぬよう、身構えて対面に座った。
「初めまして。プロデューサーの末永未来です。本日はよろしくお願い致します」
「御託はいい。さっさと帰ってくれ」
「あんだと?」
さっそく歌山が大越父にキレ、迷わず殴りかかろうとした。
「話がややこしくなるから!」
これだから連れて行きたくなかったんだ。俺が歌山を引き止めている間に、男らしい口調の社長が話の本題に入らせる。
「それはできません。まずは輿子さんの話を聞いてください」
「言ってみろ」
これは大越が父親と向き合える最大のチャンスだ。大越は不備が無いよう正座し、床に手をついて頭を下げた。
「……お父さん。ボクにアイドルを続けさせてください」
「駄目だ」
「少しは考えろよ!」
「だから黙ってろって!」
「静かに」
またもや歌山が大越父にキレて、殴りかかろうとしていたのを止める。社長の制止する声で動きが固まると、大越が頭を上げていた。
「……どうしてですか?」
「アイドルなどと言う、得体の知れないものに時間を浪費するな。お前には家督を継ぐという重大な役目がある」
「もう高校生なのだから、我儘を言わないで立場を弁えなさい」
さらに追い打ちをかけたのは大越母だった。大越家の家業は何なのかは社長から詳しく教えられていないが、これは家父長制の名残が残っている証拠である。
機械的に与えられる跡目ではなく、自分の力で得ることを望む大越は反論した。
「……自分のことは、自分で決める」
「お前一人に何ができる。また家出でもするのか?」
大越には元々、放浪癖があったのだろう。家にいるのが嫌で外に出たのに、結局は家に帰るしかない自分が情けなかったのかもしれない。早く独り立ちしたくとも日本の学歴社会では職に就けないから、アイドルという道を選ぶしかなかったのだ。
俺と出会って最初の家出だってそうである。普通ならば、出会って数日の大人を頼ろうとはしない。大越の周りには世間体ばかりを気にする人間しかおらず、救いの手を差し伸べる人間などいなかったのだ。
「あたしたちがいる」
「輿子ちゃんは一人じゃないよ☆」
以前とは違い、今なら志を同じくした心強い仲間がいる。アイドル活動で揉め、人間性で揉め、理想で揉めた彼女たちは誰よりも相手のことを知っており、お互いに短所を長所で支え合える存在だった。
「ふん、先程から鬱陶しいと思えば、何だその不良みたいな格好は? こんな社会のゴミと付き合っていたら、立派な人間になれないぞ」
父親の心無い言葉は、大越の逆鱗に触れた。目にも止まらぬ速さで、彼女は父親の胸倉を掴み上げる。
「……今まで大抵のことは我慢して来たけど、ボクの仲間を馬鹿にするような真似だけは絶対に許さない!」
「落ち着くんだ輿子君」
「頭に血を上らせても逆効果だ」
社長と俺の二人がかりで両者を引き離す。とりあえず仲間についての話題からは離れようと思っていたら、今度は母親が話し始めた。
「仲間と言っても、その彼女たちも扶養家族なのでしょ? 結局はただの家出と変わりないわけですし、他人に迷惑をかけるのはやめなさい」
母親から現実的な理論で責め立てられ、その娘は苦し紛れに俺を指で示した。
「……この人と住む」
打ち合わせの無いアドリブで衝撃を受けたが、なるほどそういう設定でこの場を乗り切ろうというのか。危ない橋を渡ろうとしているぞ……。
「婚姻も結んでいない男女が同じ部屋で寝泊まりするなど、言語道断だ」
突然の交際宣言に気が気でないらしく、大越父は身を乗り出す。
「じゃ結婚する」
「好き合っているのか?」
「うん」
話が飛躍しすぎているなぁ……。だが、大越の間髪入れない返答は嘘を吐いている証拠だ。こいつは頭の中にあるストーリー上でなら、相手への答えを既に用意してあるのだ。俺は信じているぞ。
「分かりやすい嘘を吐くな。証拠も無いだろ」
「……既成事実はある」
「マジで⁉」
大越は頬にするつもりだったのだろう。しかし、俺が動揺して振り向いたことで、偶然に丁度良く口と口が重なってしまった。
吸い込まれるような澄んだ瞳に、柔らかい唇から漏れ出る甘い吐息。まるで世界の時間が止まったかのように、自己の思考も停止する。
「何やってんだテメーっ!」
歌山によって引き離され、凍りついた時間も溶けてしまう。
「……キス」
「知ってるよ馬鹿! 仲間なんて解消だ!」
どうして当事者でない歌山が怒るのか分からないが、まるで子供のように駄々を捏ねて泣いてしまった。俺は俺で、なんとか平静を保とうとしても、心拍数が跳ね上がっていて気持ちを押し殺せない。責任取った方がいいのかな?
「き、貴様ぁ……!」
「近づかないで」
娘を取られた怒りで我を忘れそうになっている大越父に向かって、素早く大越がファブリーズを突きつける。
「自分が何をしているのか分かっているのか?」
「加齢臭が匂うんだよ、オッサン」
決定的な反抗の火種を消そうと、怒りに我を忘れた大越父の手が振り上がった。
「危ない!」
咄嗟に仲裁しようと間に入ったところ、拳が俺の顔面に直撃する。目の前で火花が散ったような痛みであり、受け身をとる余裕も無いまま激しく後方に吹っ飛ばされた。
「大丈夫⁉」
「ああ、このくらい平気だ……」
心配で駆け寄ってきた大越の前では強がってみせたが、どうにも頭がクラクラして立ち上がれそうにはなかった。
そんな部下の無念を晴らすため、ついにあの男が立ち上がる。
「……おい。ウチの者に手ぇ出すとは、どういうことか分かってんだろうな?」
この重く威圧するような口調は、社長が本気で怒り心頭している時にだけ出る本気モードだ。大越父バーサス社長。どちらもヤクザのような悪人面に、大物のオーラを纏う居出立ち。大越父が和服をはだければ鍛え抜かれた上半身が露出し、社長が上着を脱げば……。
「ビールっ腹じゃねぇか!」
「ふぐえっ!」
大越父の拳が社長の腹に打ち込まれ、社長は悶絶して畳の上を転がった。
「内臓が飛び出る~~っ!」
実の父親が無慈悲にも殴られ、情けなく沈められる光景を目の当たりにし、ヘラは目に涙を溜めて抗議した。
「何も殴ることないじゃない! パパの仇!」
大の男二人が一撃で沈められたのである。ヘラは女子の中で力が強いというだけで、大越父に敵うわけがない。無謀だと分かってはいても、誰にも止めることはできなかった。
「小娘に何――がべぇ!」
しかし、予想に反してヘラの右拳は大越父の鳩尾へとクリティカルヒットする。大越父は悲痛な呻き声を残して床に膝から崩れ落ちた。
「一撃必沈☆」
確か大越父は、機動隊の隊長を務める武闘派だと知らされていたのだが、それを一撃で倒すヘラは何者なんだ……?
まぁ、何はともあれ一件落着である。大越父は気絶しているらしく、目を覚ませば話の訊き分けも良くなっていることだろう。娘の前で面子を潰されれば、今までのように威張ることなどできないのだから。
「あらあら、可愛いのにお強いのですねぇ」
男三人が床に倒れているという異質な空間で、大越母は悠然と立ち上がった。大越がジト目なら母親はツリ目。その柔和な笑みは人懐っこさを感じさせるものの、状況に動じない底知れなさが不気味だった。
「まぁね☆」
「……油断しないで。正式な家督を継いでいるのは母の方」
「マジで⁉」
大越からの情報に愕然とする。それではさっきまでは来客の前で夫の顔を立てていたというだけで、本当の実力者は母親の方だったのか! まさかの無駄骨である。
「じゃあ、こうしましょうか。あなたたちの言う、お仲間の力で私に勝つことができたなら、こっちもアイドル活動を認めましょう。ですが、もし私に勝てなかったら、その時は諦めて指示に従ってもらいます」
「……上等」
大越は最終的に、こうなることを予想していたのだろう。勝手に話を受けてしまった。
そして俺は非戦闘員の歌山が巻き込まれないように庇おうとしたが、彼女の姿は部屋のどこにも見当たらない。あの野郎、逃げやがったな……。
「先手必勝☆」
空気を読まずにヘラは容赦なく顔を狙いに行く。だが、大越母には通用せず軽く受け流され、逆に力を利用されて投げられてしまった。強かに腰を床に打ちつけ、動きを封じられる。
相棒の大越はヘラが追撃されぬように跳躍し、空中前転しながらの踵落としを当てようとした。それは避けられてしまうが、ヘラのように合気道で投げられることはない。距離を詰めながら安全に攻撃できるという、攻防一体の技だった。
「あれ、これってアイドルの話ですよね?」
「アイドルだってバトルするさ……」
社長に聞いても謎の理屈で煙に巻かれてしまう。これも理屈で説明できないことなら、おそらく大越家なりの家族喧嘩なのだろう。口を出すのは野暮だった。
俺と社長が雑談を続けている間にも、戦闘は段々と激しくエスカレートしていく。距離を詰めた大越は上半身を防御に徹し、蹴り技で相手を確実に仕留めようとしている。変則的だが、効果的な攻撃スタイルだ。
それに対して大越母はカウンターパンチャーであり、相手の体力を着実に削ろうとしていた。家督を継がせるとか言っておいて、流派とかは関係ないのだろうか?
「大越の母親って、職業は何をやっている人なんですか?」
「俺も良くは知らないけど、国家公安委員会の諜報員だとか、巨大組織の要人警護を生業としているみたいよ」
それって機密事項なのではないだろうか? ここから生きて帰れるのかさえ危うくなってきたぞ……。
そんなことは露知らず、ヘラは素早く戦線に復帰して、勇敢にも大越母に立ち向かって行った。単純な攻撃では力を利用されることを学習した彼女は、軽快なフットワークで大越母を挟み撃ちにし、大越とのコンビネーションで一発逆転を狙う。
「二人がかりとはいえ、そんな人と渡り合っているヘラも何者なんです?」
「中学の時はレディース総長っていうの? 知らない内にギャングを壊滅させて、地元最強の喧嘩屋になってた……」
驚きの経歴である。プロと素人の差はあれど、最強の称号は伊達ではない。大越母のカウンターに対しても、ヘラは持ち前のタフネスさで闘えていた。
それでもジリ貧の状況を打開するため、大越とヘラのタッグは起死回生の大技に出た。ヘラが踏み台となり、大越を天井高く飛び上がらせたのだ。飛翔した大越は体制を変えて天井を蹴り、砲弾のような飛び膝蹴りを繰り出した。
当たれば勝てるが、外したら自分が瀕死になる。未来を懸けた全力の一撃は、残念ながら外れてしまった……。畳に膝を打ちつけた大越は、痛みで苦悶の表情になる。
「寝てなさい」
着地で硬直した隙を逃さず、大越母は娘に止めを刺そうとした。しかし、床に寝ていたのは大越母の方だった。
二人の無謀な作戦に思えた真の狙いは、大越ではなくヘラにあった。注意を上の大越に引きつけ、タイミングを待ってヘラが下から大越母の足を絡め捕ったのである。ヘラは間髪入れず、ローリングクレイドルというプロレス技で畳の上をゴロゴロゴロゴロ何回も回転させ、大越母の三半規管を狂わせた。
「ふふ、力だけはゴリラ並みにあるから、一度掴んだ相手は死ぬまで離さないのさ」
「お宅の娘さんはプロレスラーに転向した方がいいですね」
しかし、それだけでは致命傷とならない。回復する前に追撃しようと、大越は実の母に引導を渡す飛び蹴りを放つ。だが、まだ膝の痛みが抜け切らなかったのだろう蹴りの威力は低く、大越母に受け止められてしまった。
大越母は足首を掴み、そのまま娘を力の限り投げ飛ばした。大越の体は障子を破り、外の庭園にある石に背中を強打する。
大越は再起不能の重傷を負ってしまったが、大越母もそれで力を使い果たしたようだった。ふらふらと床に座り込み、肩で息をしている。まさに千載一遇のチャンスだ!
「ヘラ! 今だ、やれ!」
「ほえ?」
ヘラは自分の技により、自らも三半規管を狂わせて自滅していた。
「このポンコツがぁ!」
ヘラは大越のために闘っていたというのに、我ながら酷い言い草である。
「私の勝ちのようですね。それとも、まだ闘います?」
座り込んでいた大越母が再び立ち上がった。このままだと負けになってしまう。なんとかヘラが回復するまで持ち堪えたいが、俺は先程のダメージが抜け切っておらず、足が痺れて立ち上がれそうにない。
「……社長、行けそうですか?」
「ごめん無理。何か出そう」
「この中年!」
腹を抑えて蹲っている社長の姿は、産卵中の亀のようだった。俺だけでも立ち上がろうと、痺れる足に鞭を打つ。
「ぐわぁ! 何をするんだ!」
「我慢してください!」
社長の背中を支えにして、なんとか震えながらも立ち上がる。
「オラァ! どっからでもかかってこいや!」
後に語り継がれるその姿は、産卵中の亀と生まれたての小鹿だったという……。
「早く楽にしてあげましょ――うッ!」
だが突然、大越母は糸が切れたように倒れた。まだ大越もヘラも気絶しているというのに、絶体絶命のピンチを救ってくれた人物は誰だ?
倒れた大越母の背後にいたのは、なんと序盤で逃げたはずの歌山だった。得意気に木刀を握っている。どうやら逃げたのではなく、家の中から武器を探していたらしい。
「これもまたアイカツだよね」
それはない。
× ×
歌山以外の全員が負傷してしまったため、この日は大越宅に泊まることになってしまった。そして泊まるついでに、今後の課題について対策会議を開いた。
これで本当に親子が和解できたのかは不明だが、何にせよ大越の両親は娘のアイドル活動を許可してくれた。とは言っても、家督についてはまだ諦めていないらしく、跡目を継がせるため別の手段を考えるらしい。今後一切、俺が面倒事に巻き込まないのならそれでいい。
それはそれとして、大越の両親は職権を利用し、事件の情報操作をすることを申し出た。ただ、噂が沈静化するまでアイドル活動は休止して欲しいと頼まれた。
社長と相談した結果、申し出を受け入れてアイドル活動を休止することに決めた。人の親であるなら、わざわざ子供が世間の悪意に晒され、傷つくような体験はさせたくないだろう。せめてそのくらいの気持ちは汲む。
これは彼女たちの将来に関わることでもある。様々な影響を考慮して決定したことなのだが、歌山には全否定された。
「絶対に嫌だ。それだとあたしらが負けたみてーじゃん」
説得を試みるも嫌だの一点張りだったため、大越家の一室を借りて歌山と一対一で話し合うことにしたのだ。
「勝ち負けの問題じゃない」
「いいや、勝ち負けさ。あたしたちは喧嘩を売られてんだぜ? 理想に負けず、自分に勝つためにアイドルやってんだ。それなら反抗させろよ!」
「駄目だ。権威には勝てないように、お前らに破滅への道を歩ませたくない」
「もう遅いよ。導火線に火は点けたんだから、後は爆発するだけじゃん」
爆発はもう既に何回もした。歌山の行為はまた新しい爆弾を作り、それを相手に向かって投げているようなものだ。だが、一度は正当化させた手前、俺はそれを上手く説明できる自信が持てなかった。
「何をそう意固地になっている? 少し休めば、またアイドル活動できるんだぞ?」
「一貫性を保てないのが嫌なんだよ! 過去の記憶や、誓いや、想いが全て偽物になるなんて耐えられない!」
「少し休んだ程度で偽物になるわけないだろ。お前は俺たちの絆を、そんな脆いものだと思っているのか?」
「そうは思わないけど、他人から見たらそう映るんじゃない?」
「他人の視線なんか気にするな。お前はお前だろう」
「それなら休まないでアイドル活動しようよ! 結局、他人の視線を気にしているのはそっちじゃんか!」
図星を突かれ、思わず頭が熱くなる。愚直過ぎて周りの見えていない歌山に対し、言わなくてもいいことまで言ってしまった。
「そうじゃないと何度言ったら分かる。話がループしていることに気づかないのか? 理想のために死んだって、世界は何も変わらない。もし何か革命的なことをして変化があるのなら、それは個人の見方なんだ。破滅したら元も子もない」
「努力しても無意味なんて、そんなの生きている意味さえないよ!」
「お前は生きるために敵を見出そうとしているだけだ!」
「もういいっ! あたし一人でもやる!」
歌山はそう言い残し、部屋から出てしまった。子供相手に大人げなく論破してしまったと、反省しながら自分も部屋に戻る。
ちなみに、なぜか社長や大越父と相部屋だ。部屋に入ったら険悪な雰囲気なんだろうと気が滅入っていたら、二人は殴り殴られた関係性だというのに、もうすっかり仲良くなっていた。気持ち悪い。
社長が歌山と話し合った結果を訊いてくる。
「どうだった?」
「駄目でした。ついムキになってしまったので、また明日に説得します」
「お宅も大変ですな」
「本当にね!」
まるで他人事のように言う大越父に、キレ気味で皮肉を言い返した。社長は構わず話を続けようとしてくる。
「いや、変な話さ、実の娘さんとは関係良好なの?」
「良いわけがない。それでも昔は可愛かったんだが、中学生くらいから何を考えているのか分からなくなった」
「私のところもそうですよ。思春期って嫌だね」
嫌なのは修学旅行みたいなノリで教育相談をしている、あんたらオッサンの方だ。とはいえ、こんな機会は滅多に無いだろう。娘たちの情報を聞き出すため、俺も会話に加わった。
「歌山のは思春期っていうか、反抗期ですよ」
どっちも似ているようで、実は非常に異なる。反抗期を経ないで成長した子供は無気力になりやすい。その点、アイドルになりたいと願った彼女たちは大丈夫だと思っていたら、社長が意外なエピソードを話す。
「ヘラに反抗期は無かったなぁ」
「不良なのに⁉」
「不良じゃないから。元からあんな性格だったせいか、最初は同級生から執拗にいじめを受けていたんだよ」
確かに、あのキャピキャピした性格は同性から嫌われそうである。特に女子のいじめは陰湿そうだし、より捻くれそうなものだが……。
「全く性格直っていませんよね」
「いや、本当は優しい子なのよ。それなのに娘から悩みを相談されて、自衛のための暴力は暴力と呼ばない。それは知性と呼ぶって教えたら、あんなことに……」
黒人解放運動の指導者、マルコムXの言葉だ。
「随分と革命的な教育ですね……」
「しかし、共感はできますな」
危険な思想も多いマルコムXの名言だが、大越父には納得できる部分があるようだ。職業的に駄目だろ。
「でも、歌山に教えるのは逆効果でしょう……」
「反抗期というのなら、歌山君も両親に対して何か思う所があるのではないか?」
「なるほど。それは一理ありますね」
大越父はただの頑固親父ではなく、話してみたら普通の面白い親父だった。歌山の父親とも話し合えば、案外仲良くなれるかもしれない。歌山を納得させる希望を抱きながら、その日は就寝したのだった。
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