第9話 MV撮影

 ミニライブは成功したが、その後のヒーローショーは悲惨なものだった。それについては割愛するとして、CDの売り上げは順調である。


 CDも発売できたことだし、テレビ局の歌番組オーディションにでも申し込もうかと思っていた矢先、なんと向こう側からオファーが舞い込んできた。


 緊張して震える手を抑えて理由を尋ねると、番組ディレクターが雑誌に載っていた取材の記事を偶然目にしたらしく、その内容を甚く気に入ったのだそうだ。これほど運の良いことはない。思わず二つ返事で了解し、軽く連絡事項を確認して電話を切ってしまった。


 そういえばCD発売前に見本誌は届いていたが、忙しくてまだ中身を確認していなかったことに気づく。取材していた雰囲気からすれば、悪いことは書かれていないはずだ。期待して記事を読むと、見出しにはこう書かれていた。


(アイドルがアイドルに噛みつく⁉)


 なんともまぁ、かなりパンクの効いた見出しだ。その内容は予想通り既成概念の破壊や、現実社会に絶望した若者層のフラストレーション、または反抗する等身大の自己表現など、かなり過激な文章が書かれていた。


 この記者マジで才能あるよ。もう二度と頼まん。

 このまま下手にテレビ出演しても、変に敵を作ってしまいそうだ。深夜番組とはいえ、視聴者の受けが非常に悪い。だが、勢いで出演する旨を伝えてしまったし、これを断ったら次の仕事が難しくなりそうだ。


 どうしたらいいか自分だけでは判断しかねるため、最終的な判断はアイドルたちに委ねることにした。念の為に言っておくが、これは決して責任逃れではない。


「出るに決まってんじゃん」


 分かり切った答えが返ってくると信じていたため、テレビ出演する方向で相手方と打ち合わせを済ませた。どのような反響が視聴者から来ようと、後は野となれ山となれである。


 そしてついに収録の日が訪れた。リハーサルでは簡単な流れだけ打ち合わせたため、本番でどうなるかは分からない。質問内容だけは事前に教えてもらっているが、あいつらが俺の用意した通りにコメントするとは思えないのだ。


「今日のゲストは、こちらの方々です! ドン!」

「どうもーっ!〈ゲットバッグ ザ アナーキーズ〉でぇーすっ!」


 ドキドキの収録が始まる。パーソナリティの方はお笑い芸人であり、同じ事務所に所属しているので、こちらとしても接しやすかった。それだけが救いか。


「漫才師みたいな登場ですね!」

「言われ慣れてます☆」


 相手が社長の娘だけあって、やりづらそうだなぁ……。本当に申し訳ないが、めげずにスタジオの明るい雰囲気を保ってほしい。


「このユニット名の意味は? 理由とかもあれば、ぜひ」

「……自由でいたいから」


 ドン引きだよ。大越の何かヤバい新興宗教に執心していそうな返答に、司会の男性は苦笑いしてしまった。


「重そうなので深くは聞きません。ですが、ビジュアル的にも一般的なアイドルと言うより、ロックバンドに近いね。これは狙って?」


 歌山の口ピアスに触れちゃったかぁ……。まぁ、ラジオとは違ってテレビは視界からの情報が重要だからな。そこを指摘しないわけにはいかない。


「いえ、あたしが好きなスタイルだからです」

「パンクだねぇ。他のメンバーはどう思ってるの? かなり個性が違っていそうだけど」

「それが叶ちゃんらしさなら肯定するよ☆」

「……最初は衝撃的でしたが、見ている内に慣れました。彼女はボクたちの中で一番オシャレ好きなので、あまり外見については口出ししません」


 思わぬところでメンバーの評価が聞けたな。特に大越のコメントが素晴らしく、褒められた歌山も照れているようだ。


「口だけに、つってね! ぶふっ!」


 司会の芸人が余計な発言をしたため、このまま良い流れで歌へ移行できず、いじられた歌山の額には青筋が浮く。


「…………」


 あいつは芸人を辞めた方がいい。俺から社長に打診しておこう。


「互いに長所を認めて短所を補っているということで、とても仲の良い三人組でした! それでは歌の方を準備お願いします!」


 滑ったことを取り繕うように、司会の男性は無駄にテンションの高い声で締めくくった。心臓に悪い。


 歌山たちはスタジオに設置されたステージで歌を披露し、無事にテレビ出演を終えられた。最初はどうなることかと思ったが、これで良い経験になっただろう。他の番組に出演することになっても、あの芸人よりかはトークが上手だ。


 テレビ放映されたものを確認しても問題無し。あのような番組であっても、やはりテレビ効果は絶大である。放映された後になってから、徐々に仕事の数が増えてきた。


 雑誌のグラビア、ファッションモデル、ラジオ、ドラマや映画のキャストなど、出演のオファーが個人的なものから、ユニットを含めて次々と舞い込んでくる。


 今でこそ俺もプロデューサー兼マネージャーのようになっているが、もっと人気が出て忙しくなったら、彼女たちに専属のマネージャーを雇った方が良いかもしれない。


 どの仕事から手をつけようか、選別してから歌山たちに決めてもらおうとしていたら、またもやアイドル活動の転機が訪れた。なんと、契約していたレコード会社からミュージックビデオ制作の話を持ちかけられたのだ。


 駆け出しアイドルにミュージックビデオ制作の資金を出してくれるなんて、いくらなんでも話が上手過ぎる。何度も確認の電話をして理由を問い詰めたところ、CDの売り上げが予想以上に好調らしい。それだけではなく、〈夏いぜガールズ〉の後輩だということで先行投資がしたいそうだ。日向井と楽水様様である。


 ここで一度、〈夏いぜガールズ〉の実績について詳しく説明しよう。大手芸能事務所の影に隠れてしまってはいるが、〈夏いぜガールズ〉の社会的評価は高く、ファンからカルト的な人気を誇っている。その安定さは盤石であり、一定以上の収益が見込めるのだ。


 下積み時代なんぞ知るか。俺は小さい仕事を全て蹴って、このチャンスを手にしようとアイドルたちに相談したのだった。


「ミュージックビデオ撮るの⁉ スゴいじゃん!」


 歌山は素直に喜び、はしゃいで子供らしい一面を見せていた。こういう性格は好意的に受け止められる。それに比べて大越は、喜びよりも驚きの方が強いらしい。


「……プロデューサーって、もしかして敏腕?」

「惚れるなよ」


 ……もう惚れてる、などという茶番を大越にさせる暇も与えてくれず、既に社長から情報を聞いているであろうヘラが種明かしをした。


「それは違うよ輿子ちゃん☆ 純粋にヘラたちの実力だよ☆」


 否定できない。最近は俺から企画しなくとも、向こう側から仕事の依頼が来るので、俺はプロデューサーらしい仕事をしていなかった。少しでも貢献しているとすれば、両者の関係を取り持つくらいである。


 ここのところ活動の勢いが乗っているせいか、俺も含めて彼女たちは天狗になりつつあった。なんにせよ、俺は彼女たちの期待に応えようと、制作の打ち合わせに奔走した。


 ……奔走したのだが、やはり現実はそう甘くはない。どこかに必ず落とし穴が存在する。注意深く歩かなければ、まんまと罠に嵌ってしまうことを痛感した。


 撮影は滞りなく行われていたはずだった。まずはレコード会社と打ち合わせをしてから俺は新曲を書き下ろし、次は制作会社と内容の連絡を取り合っていた。


 しかし、撮影の途中でミュージックビデオの制作を打ち切られる。理由を相手に訊くと、大手事務所から制作の依頼が突然になって前倒しされたらしい。前金として予算は既に振り込まれているため、立場的にも断ることができないそうだ。


 あからさまな大手事務所の嫌がらせとしか思えないが、無力な俺には対抗する術が無い。被害妄想を膨らませるのは早計だ。とはいえ、スケジュールを切り詰めて参加した期間は決して短くはない。それが全て無駄になった。


 このことを彼女たちに伝えると、ショックで黙り込むしかなかった。その場にいる全員が暗い面持ちなのかと思いきや、大越だけは澄ました表情で椅子に座っている。


 そういえば、ミュージックビデオ制作を伝えた時を思い返すと、大越の反応は驚きではなく戸惑いだった。信号は発されていたというのに、俺はそれに気付けなかったのだ。調子に乗っていた自分が恥ずかしい。殴り殺してやりたい。


「じゃあ、もうミュージックビデオは制作できないの?」

「そうなる。本当にすまん」


 歌山が一番楽しみにしていただけあって、残念な気持ちは非常に強いだろう。俺は頭を下げるしかなかった。


「でも、金銭的な面で損をしたわけじゃないから、また遠くない内に制作できるぞ」

「そうなの? なら問題ないじゃん」


 少しでも元気づけようとした俺の気遣いだったのだが、一転して歌山はやる気に満ちた表情を取り戻した。情緒不安定なのかな……?


「どういうことだ?」

「自分たちで作ろうよ。ミュージックビデオ」


 これまた突拍子もない発案である。しかし、そのような展開には慣れてしまったのか、ヘラと大越も話に乗り気のようだ。


「いい考えだね☆」

「……まぁ、そろそろ夏休みだし」

「DIY! DIY!」


 歌山は変に意識高そうな掛け声を上げ、まだ実現できるかどうかも分からないのに浮かれている。少しは学習しろと言いたいが、俺にも後ろめたい気持ちはあるので、ガッカリさせてしまうようなことは躊躇われた。


 ミュージックビデオの撮影手法とか演出は俺が考えるんだろうな……。呑気にマネージャーなんて言ってられない。暫くはプロデューサー業というより、ディレクターとしての仕事が長引きそうだった。


 ×   ×


 レコード会社からミュージックビデオの制作費用として出資されていた予算を、自主制作のために全て使えるとは思っていない。それでも最初に企画の話を持ちかけてきたのは相手の方なので、直談判して制作資金を確保してきた。


 その額は決して多くはない。アシスタントなどの人件費や、機材の貸し出しなども考慮に入れると、あまり映像に金をかけられそうになかった。


 ちなみに、ミュージックビデオの曲は『即はめボンバー』のような、ぶっ飛んだ曲でやることに決定した。雑誌やラジオなどで宣伝した甲斐あってか、カップリング曲がアイドルらしからぬアイドルとして口コミで評判らしい。それが良い意味での評価かは定かではないが、注目されていることに変わりはない。


 そのような背景もあって、次の新曲は『産声ロック』にした。途中でセックスという単語を何度も連呼する内容となっているが、俺としては真面目に作詞作曲したつもりである。まぁ、例によってアイドルたちの反応は以下の通りだ。


「子供が憧れるアイドルは無理だって開き直りはしたけど、限度ってものがあるでしょ……。あたしは好きだけど」

「……有害放送」

「また悪目立ちするね☆」


 いや、これは女性に対する愛情表現なんだよ。早い内に女性ファンを獲得する狙いがあってだな……という演説を延々としたが、分かってもらえず鼻で笑われただけだった。むしろ、俺が女性を分かってないみたいな空気になったのは釈然としない。


 それはともかく、俺がやるべきことはミュージックビデオの演出を企画することだった。撮影にはストップモーションと呼ばれる、静止した人や物を1コマごとに少しずつ動かして撮影し、それを連続して再生することにより、被写体が動いて見える技法がある。それを使えば予算を低くできるのだが、アイドルのダンスなども入れるとインパクトに欠ける。


 その他だと同一ポジションがある。これは同じサイズと、同じ位置にある物体を複数カット撮影し、編集によって繋ぎ合わせることで、新たな意味や面白い効果を生み出すものだ。工夫すれば不思議な空間を生み出せるが、これだけで間を持たせるのは辛い。


 それならマルチスクリーンはどうだろうか? これは複数の画面を組み合わせ、同時に見せる技法だ。複数の画面を連動させることによって、単一画面で得られるものとは異なる映像体験を創出できる。本当ならばこの撮影手法を採用したいところだが、素人が扱うには難しい手法だ。下手をすれば火傷することになるので、今回はお蔵入りということにした。


 さっきから思考しても自己完結ばかりで、一向に演出の方向性が固まらない。焦っていても良い案は浮かばないため、俺は静かに策を練ることにした。


「ねぇ、まだ決まらないのー?」


 椅子に寝転がるという、器用な真似をしている歌山のせいで集中力が途切れた。


「どうして休みなのに事務所にいるんだ?」

「だって暇なんだもん」


 ここんとこ毎日、学校の放課後に事務所へ立ち寄っている。事務所に来てもスケジュールの確認くらいしかやることはないのだが、歌山だけではなくヘラと大越も集まっていた。制服姿が新鮮である。


「今の内に夏休みの予定を立てよ☆」


 家でやれよ……。帰れ、という言葉が喉元まで出かかったが、彼女たちが暇なのは俺が小さい仕事を蹴ったからである。制作が行き詰っている今なら時間が空いているため、いくらでも仕事を受けることができる。


 しかし、俺にも考えがあるのだ。仕事の内容を見てみると、個人的な偏りが極端に出てしまう。ヘラなら水着のグラビアだとして、大越はファッションモデルとかだ。そして幼児体型の歌山にモデル系の依頼は来ず、映画やドラマのエキストラくらいしか無い。


 もちろん、それらの小さい仕事でも次の大きな仕事に繋がっていくのだろう。本当なら地道に活動を積み重ね、人脈やファンの信用を培っていくべきなのだ。


 だとしても、彼女たちはアイドルである。最初から個人的な仕事を優先させるよりは、ユニットとしての仕事を中心にやらせてあげたい。せっかくCDデビューを果たしたのだ。プロモーション用のミュージックビデオを完成させることで、マスメディアに頼らなくとも、自分たちのライブだけで活動できるような地位を確立させたい。


 そんな親心はいざ知らず、彼女たちは夏休みの予定を立てるのに夢中だった。俺に対する当てつけとしか思えないが、楽しそうで何よりである。


「……またハワイアンズに行きたい」

「水着を買わなきゃね☆」


 大越は泳ぎが得意らしく、前に遊んだハワイアンズが気に入ったようだった。どうせなら浜辺のある海に行けばいいのに、中途半端なところでインドア派である。


「お祭りとかもいいなー」


 歌山なら音楽フェスとか好きそうなのに、意外と素朴な欲求だった。アイドル活動で参加したイベントなどではなく、出店が連なるものを想像しているらしい。


「お祭りといえば打ち上げ花火だよ☆」


 ヘラは派手そうなのが好きだよな。俺なんかは海岸でやる手持ち花火や、ロケット花火なんかが好きだ。今年は無理でも、いつかは彼女たちと一緒に遊びたいものだ。


「……天体観測」


 いちいち大越の趣味は俺と合うな。本の虫かと思えば、けっこうな多趣味だった。この分だと映画やカメラも好きそうだ……ん? 花火と星? 夜に光……。


「それだ!」


 大声にビックリした歌山は椅子から転げ落ちた。


「急に何……? 大きな声出さないでよ」

「ミュージックビデオの演出はピカピカムービーでやろうと思う」

「……何それ?」


 ピカピカムービーとは、暗闇の中で懐中電灯やペンライトの光を利用し、空中に文字や絵を描く様子を、通常よりカメラのシャッタースピードを遅くして撮影する技法のことだ。その描いた軌跡がカメラに映し出され、その撮った何枚もの写真を繋げ、パラパラ漫画のように見せるムービーである。


「主に結婚式の余興とかで使われる撮影手法だ。動画で観た方が早い」


 ネットで検索し、適当な動画をいくつか再生する。動画の中では複数人がペンライトを持ち寄り、空中に文字や絵を思い思いに描いていた。中にはロトスコープの手法を応用しているものまであり、その自由度は計り知れない。


「可愛いね☆」

「そぉ? なんか素人臭くてダサくね? 少なくともレコード会社が許可を出せるクオリティではないでしょ」


 乙女心のあるヘラとは違い、歌山の評価は辛辣なものだった。しかし、俺にはその印象を覆させるだけの勝算がある。


「ふふふ、大卒を舐めるなよ」

「いや舐めてないし、それに多分この人たちも大卒だし」

「俺はこう見えて、大学ではメディア学を専攻していたんだ。得意なのは音楽だが、動画も少しは齧っている」

「……器用貧乏だね」


 俺には前科があるため、大越の注意をありがたく受け止める。


「オーケー。調子には乗らないから安心しろ。俺に任せてくれ」


 彼女たちに応援してもらい、俺は絵コンテを書き始めた。絵は幼い頃から暇潰し程度に描いており、それほど苦ではない。


 ピカピカムービーはストップモーションと技法は同じであり、低予算で作成することが可能だ。その上、光の見せ方一つで無数に発想が湧いてくる。問題はどうやってこれをアイドルの歌やダンスと合わせるかなのだが、これも他の技法と組み合わせれば解決できそうだった。腕の見せ所である。


 後日、完成した絵コンテを基に、ミュージックビデオの撮影が開始された。


「なんで雨の日じゃないと駄目なのー?」


 機材を運んでいる歌山が早くも音を上げている。


「雨がいい感じに光を反射するんだよ。いいから手伝え」


 現在は午後の昼過ぎ。場所はどこかの高架橋。柱と柱の間隔には拘ったから、ガード下って言った方が正しいか? 夕方から雨が降るというので、その前から準備を始めていた。


「……このオブジェは何?」

「夜になったら分かる」


 大越が見つけたのは、脚立に張り付けた蛍光ケーブルの絵である。暗闇で電気を点ければ、脚立は見えずに絵が浮かんで見えるといものだ。これを少しずつ移動させてコマ撮りし、まるで動いているように演出させるのが狙いだ。


「プロデューサー、プロデューサー☆ あのカメラは?」


 ヘラがホームビデオカメラを手に持っているスタッフを指さす。


「あれは今回のミュージックビデオでの、メイキング動画用のビデオカメラだ。どうせだからついでに撮影しとこうと思ってな」


 自分たちの記念にもなるし、公開すればファンから親近感を得られる。それだけではなく、事務所から引っ張ってきた社員とホームビデオカメラなので、大した金もかかっていない。メイキング動画ならそれで十分だ。


「いいねぇ、俄然やる気が出てきたよ」


 あれだけ文句を言っていた歌山が、カメラ一つで元気を取り戻していた。分かりやすいほど現金な奴である。


「そんなに意識しなくていいから。あくまでも自然体な」

「ヘラはヘラだよ☆」

「ああ、はいはい。お前らは先に撮影あるから早く衣装に着替えてこい」


 ピカピカムービーを撮るのなら、そこにはストーリー性を付け加えなければならない。暗闇に光る文字と絵が非常に目立つので、意図せずしてメッセージ性が強まってしまうからだ。とはいえ、逆手にとってしまえば問題という問題にはならない。


「……それは夜じゃなくてもいいの?」

「夜十時を過ぎたら高校生は補導されるだろ。今回の撮影は絶対に朝までかかるから、今の内に序盤のカットを撮り終えたい。後のカットは俺とアシスタントで徹夜する」


 大越の両親が厳しいからということではなく、これは大人として当たり前の気遣いである。それでも不良少女は納得できない様子だった。


「あたしはギリギリまでいるからね」

「好きにしろ」


 歌山だけではなく、他の二人も帰れる寸前まで手伝うと言い出した。人手が多いことに越したことはない。皆で協力しながら雨の中を遅くまで作業し続けたのだった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る