第4話 結・受け継がれる力
1
「雅ッ⁉」
思わず叫んでしまった。目の前には死んだはずの最愛の人がいたからだ。
「なによ、いきなり大声なんか出して。しかも幽霊を見たような顔をしてるけど……バカになったの? 病院に行く? それとも死ぬ? ……って本当に大丈夫? お~い、乃人ぉ~、お~い」
雅が乃人に近寄り、顔の前で手を上下に振る。
「い、いや、俺は正常だから……」
ここで乃人は自分が失敗した事に気づく。
この世界の雅に会ってしまった。つまりは関わりを持ってしまったと言う事だ。これでは雅を巻き込んでしまう可能性も出てきた。だからと言って今から他人の振りをしても逆に怪しまれるだけだ。
ここは適当な事を言って雅から離れるのが得策だな。
「で、お前はどうしたんだよ、こんなところで」
乃人は普通に話すはずだったのだが、そうはいかなかった。
雅が生きている……よくよく見ればこの世界の雅は髪の色素が少し薄いような気がする。しかし、この娘は世界は違うが正真正銘の雅だ。俺の呼び方、話し方などは違えど、俺の愛する雅だ。
自然と笑みがこぼれる。
生きていてくれてありがとう。
「キモッ、なに笑っているのよ」
勿論そんな事が分からない目の前の雅にしてみれば、意味もなくただニヤニヤと笑っている風にしか見えない。乃人も笑みを隠そうとしており、それが逆にニヤニヤを強調していた。
「てかなんで白髪? 染めたの? 肩のカメラをどうしたの? 最新の? 買ったの?」
「お、おう、まあな……」
雅のマシンガントークの勢いに負ける乃人。
すまん、この世界の俺よ、後でうまい事やっといてくれ。
乃人は心でこの世界の自分に謝罪をすると「じゃあな」と雅から離れようとするが、
「は? 今日はデートでしょ? あんたがここに呼んだんじゃない。家が隣同士なのに、時間差の方が雰囲気が出るから、とか言って」
マジか……。
乃人の背筋に嫌な冷たい汗が流れる。予想外の展開に頭が理解出来ず、身体が硬直する。いや、理解はしているものも、頭がそれを拒否している。
確かに今日の雅は(この世界の普段の雅を知らないけれど)、オシャレをしている。髪型や服の名前が分からないが今の乃人でもそのくらいの事は確認出来た。
四六億年に一人の美少女だな、と思いながらも乃人はこの絶望的な状況を打破する方法を考える。
待て待て待て待て、デートって言っていたよな。今の時間は午前一〇時五〇分。おそらく待ち合わせ時間は一一時ジャスト。でも俺は五分前行動を心がけている、おそらくこの世界の俺も心がけているはずだ。ならタイムリミットはおそらく約五分。ああ、チクショウ、さっきから俺おそらくが多いなあ、おそらく何回目だよ。って、それどころじゃない。雅もそろそろ不信に思ってきた頃か? こう言う時に便利な煙幕があればいいんだけどなあ……。
乃人は持っていないと理解している煙幕を取り出すため、ポケットに手を入れる。するとその指は、恵から無理矢理持たされたこの世界の携帯端末に触れた。形や性能はほぼスマホだ。困った時にいつでも電話出来るようにとの事だったが、今がその時だ。
…………ふふふ、メアド交換していて正解だったぜ、たった今メールさせてもらった。さあ来い電気を操りし戦士よ、この状況を察してどうにかしてくれ‼
白髪の乃人はポケットの中の平行世界版スマホを神に祈るかのように力強く握りしめた。
「えへへぇ~、雅ぃ~、もっとヤロ~」
一方、その頃。メールを送られた黒髪の乃人は夢の中にいた。
白髪の乃人がメールを送ってから五分。
二人は沈黙のまま、向き合っていた。
…………なんで来ねぇんだよ‼
黒髪の乃人は一一時になっても来なかった。
許せねぇ……この際、俺のメールに気づかなかったのはもうどうでもいい。だが、雅を呼び出しといて時間になっても来ないのは万死に値すんぞコラァッ‼
自分と違う平行世界の自分に段々と怒りがこみ上げてきた乃人だったが、いくら怒ってもこの状況が打破出来る訳ではない。そして彼は一旦、冷静に考える。
いくら世界が違くても俺は俺、雅との約束を破るはずがない。つまり来たくても来られない状況に陥っていると言う事か?
そして彼にある一つの仮説が浮上した。
黒髪は俺と接触した。つまり俺と関わったから来られない、ここから考えられる事は一つ……ジオル肯定派に襲われた⁉
「雅はここがいいのかぁ~、ほれほれほれ、もっと声上げてもいいんだぞぉ~……いひひ、可愛い顔して泣くじゃないか……」
黒髪の乃人はベッドで最高の夢を見ながら熟睡していた。
確かにその可能性はあり得る。ジオル肯定派に人質として監禁されているかもしれない。待てよ、じゃあ母さんは⁉
乃人は母親のメアドを選び、こっそりメールを送る。
「ふ~ふふん♪ ふ~ふふん♪ ふっふっふっ、ふ~ふふん♪」
恵は上機嫌な鼻歌を歌いながら朝風呂を楽しんでいた。
母さんも応答なしか……こりゃ本格的にヤバいな。俺と関わった人間が次々と連絡が取れなくなっていっている……。
このままじゃ雅のすぐに捕まるかもしれない。
そう思った白髪の頭に一つの案が浮かんだ。
「すまん、雅、今日はデート出来なくなった。今度のデートの時になんでも好きなものを買ってやるから今日のところは見逃してくれ、頼む!」
乃人は頭を下げた。
自分から呼び出しておいていきなりやっぱ無理だわ~、と言われた普通は怒るだろう。しかし、相手は雅で自分は乃人。ここまで頼めば許してくれるだろう。
そう思ったのが失敗だった。
「な、な……」
「?」
「乃人のバカァァァァァッ!!!!!」
「あべし!」
乃人は涙腺崩壊寸前の雅によって顔面に強烈なグーを喰らった。
世界が違えば人の性格も違う。この世界の雅は少し攻撃的のようだ。
多くの人で賑わう昼の町に一人の少女が歩いていた。
透き通る程の綺麗なサラサラとしたストレートロングの茶髪を持ち、胸が大きく、少し幼さを残した顔には庇護欲を掻き立てられる。(おそらく)しっかりした性格なのだが、外見のせいでどこか放っておけない衝動に駆られる。
楽しみにデートを直にドタキャンされた事が余程堪えたのか、目は赤く腫れ、泣いた後が薄く残っていた。
「乃人の馬鹿、乃人の馬鹿、乃人の馬鹿馬鹿バカ馬鹿バカ馬鹿バカ馬鹿バカ……せっかく今日初めてをあげてもよかったのに……っひ……っひっく……」
そしてその一〇メートル後ろには人々に紛れながら、少女を尾行するドタキャンした張本人。
白髪の乃人が思いついた案、それは尾行だ。
ジオル肯定派は自分と接触した人間を狙っている。
その考えに至った乃人は自分と出会った雅をあえて一人にし、ジオル肯定派が出て来た瞬間に捕まえ、拷問しながらじっくり情報を聞き出す、と言う作戦を思いついた。
似たような作戦を羽島にダメだし喰らったが、これなら大丈夫だろう。雅を囮みたいにするのは無性に心が痛むが……ここが我慢のしどころだ……。
雅が一歩進む毎に乃人も一歩進む。それを繰り返しそろそろ数分、雅に変化があった。正確には彼女の周りに変化があった。
「ねぇ君、今一人? 良かったら俺っちたちと遊ばない? 奢るからさぁ~」
「うわぁスゲッ! この娘メッチャ可愛いじゃん! マジ俺のタイプ!」
明らかに社会人年齢のチャラそうな二人の男が雅に声をかけた。
片方は二〇代前半の細身の男、金髪に両耳にピアスをしている。
もう片方は二〇代後半の緑髪の男だった。こちらは金髪とは相反するように唇にピアスをしていた。
それを見た乃人は勿論、
なんだあのクソ野郎共は‼ 今すぐ離れろ、ぶっ殺すぞ‼ コラァッ‼
目立たないように心の中で奮闘する。
「興味ない」
雅は一瞥すると、その二人を避けて通ろうとしたが、
「まあまあ、そんな事は言わずにさあ」
と金髪が雅の腕を掴む。
「放して!」
その言葉を聞いた乃人はいつの間にか前に出ていた。自分でも気付かずにどんどん前に出ていく。
周りの人混みを無理矢理掻き分け、走り、金髪の顔面に跳び蹴りを喰らわせる。
「ぐはっ!」
「乃人っ⁉」
何故か自分とのデートをドタキャンした相手がここにいるのか分からないと言った表情の雅。驚き過ぎて声が出ないようだ。
一方、吹っ飛んだ金髪の男は顔に手を添えながら困惑している。
「んだ、テメェッ!」
しかし、いきなり仲間が襲われた事に緑髪が激情した。
彼は着地した瞬間の乃人に殴りかかる。その腕は青い光に包まれ、なんかしらの異能が発動していた。瞬間的にその光に危険を感じ取った乃人はそれを避け、緑髪の背後へと廻った。
「ふんッ!」
「雅に手を出すとかふざけてんじゃねぇぞ、コラァ!」
白髪は男を羽交い絞めにし、そして彼が再び異能を使う隙も与えず、彼の唇にしてあるピアスを勢い良く引き千切った。
「うがああああああああああああああッ!!!!!」
緑髪の唇から大量の血しぶきと同時に肉片が噴き出す。緑髪は激痛に顔を歪ませながら自分の口、正確には唇を抑えた。流れ出る血液は止まる事を知らず、延々と流れ続ける。
「うるせんだ……よっ」
最後に乃人は緑髪の男の顎を殴り、意識を刈り取った。
バタンッ! と倒れて、ようやく静かになった緑髪を放っておくと、次に乃人は金髪に近づいて行った。
上半身だけ起こした金髪は乃人を震えながら見上げる。
その目には恐怖の感情だけが浮かんでいた。
「く、狂ってやがる……」
「知るか、ボケ。他人の女に手を出すのがワリィんだろうが」
乃人は吐き捨てるように言うと、金髪の上半身を蹴り、地面に固定するように踏みつけると、緑髪の男同様に両耳のピアスを引き千切った。
「ちくしょう~、なんでだ~。なんで俺が牢屋に入るんだよ~!」
「そりゃあ、兄ちゃんがなんかやったかだろ?」
「俺は愛する女を不埒なナンパ野郎たちから守っただけだ!」
あの後、乃人は野次馬たちからの通報により駆け付けた警察に捕まり、牢屋に入っていた。目の前には三〇代前半の男がシマシマの服を着て座っており、乃人にとってはこの牢屋の先輩に値する人物だ。世間話が好きな明るい男だった。
持ち物はどうにか隠した胸にしまってある小箱だけで、それ以外は全て没収されてしまった。勿論カメラも没収されたため、翼やクロエとの連絡も取れない。
脱獄しようにも決まったプランがないため、失敗するのは目に見えている。
他にやる事のない乃人は目の前の先輩と話していた。すると、乃人はいい事を思いついた。
「先輩、そう言えばジオル肯定派って知っていますか?」
この壁の中で起こる事件の大半がジオル肯定派によるもの。なら牢屋に入っているこの人もジオル肯定派に関係があるかもしれない……。ジオル肯定派でも牢屋の中では何も出来ないはずだ。
乃人は自分自身でもいい考えだ、と思い絶賛する。
〇だったジオル肯定派の情報が少なからず手に入ると思った乃人は次の瞬間、絶句する事になる。
「ジオル肯定派? なんじゃそりゃ?」
「……はい?」
あまりにも斜め上の返答に言葉を失った。
2
相手が異能を使って攻撃してきた事、相手が嫌がる相手に強引にナンパをする常習犯だった事、その他暴行などの常習犯だった事が幸いし、乃人はお巡りさんから「やり過ぎはほどほどに」と言う注意を受けてすぐに釈放された。
再び先程の公園に戻った乃人は返されたカメラに電源を入れる。
『乃人さん、連絡を入れたと言う事はなにか進展があったんですか?』
画面に映ったのは翼だった。画面にクロエが映っていない事から、起きたクロエは自分の仕事に戻ったのだろう。
「まあな」
乃人はカメラを切っている間に起きた出来事をそのまま翼に伝えた。
「なるほど、こんな短時間でそんな事が……濃いですね」
「そこじゃねぇよ。俺が言いたい事はジオル肯定派なんて本当は(・・・)いないんじゃねぇか、って話だ」
乃人はこの世界に来てからの事を振り返る。
この世界にも確かジオルは存在する。
そして今回の目標のジオル肯定派の殲滅。彼らについては話でしか聞いていないし、それらしき影も一切見ていない。そして今朝の新聞にもジオル肯定派の記事が一つもなかった。極め付けは牢屋の先輩の一言。以上の事から乃人はジオル肯定派は始めからいない、お偉いさんの作った幻の集団だと言う仮説を立てた。でもこれはあくまでも仮説、いくらでも穴がある。乃人は今、その穴を自分に言い聞かせるように埋め始める。
「新聞に載せていないのは載せただけで、そこの新聞社が襲撃されるから。牢屋の先輩がジオル肯定派を知らないと言ったのは、自分もジオル肯定派でバレないようにしているから。この二つは元からジオル肯定派がいないから載せようがないし、知りようがない、って言う事で穴は埋まる。でも問題はお偉いさんだ。なんで連合の条件が存在しないはずのジオル肯定派の殲滅なんだ? いないんだから出来るはずがないだろうが」
…………。
…………。
…………。
しばらく沈黙が続き、翼が答える。
『……いや、おそらくそれが狙いでしょう』
顎に指を付けた翼はまさに考える人だ。
「どう言う事だ?」
乃人が眉を顰める。
『見ての通り、この壁の中ではジオルが出現しないため、生活は衣・食・住が充実されています。わざわざジオルと戦う必要なんてないんですよ。簡潔に言いますと、お偉いさんには我々と手を組む意思は最初からないと言う事です。問題と言えば人口増加くらいですが……いや、その問題もないでしょう。この世界の乃人さんが行っていたバイト、おそらくあれはお偉いさんの口減らし目的も含まれています。全員が全員、無事にジオルに勝てるなんて保証はありませんし』
「なっ⁉ ……」
乃人は絶句した。意味が分からない。なぜ人類の敵であるジオルを共に倒そうと言う案を受け入れないのか? なぜお偉いさんがジオル肯定派なんて幻想の集団を作ったのか?
すると乃人の疑問に答えるように翼が説明を始めた。
『乃人さん、もしなんですけど、明らかに自分たちの文明より優れた文明が手を貸すと言ったらどうします?』
「そりゃあ、まずは見返りを聞くだろ? 無料ほど安いものはねぇって言うし。でも突然どうした?」
『今回がそれなんですよ』
間髪入れずに翼が答える。
『彼らから見て私たちはこの世界の文明には出来ない、平行世界を行き来出来る文明です。で今回、我々が彼らに連合(同じ立場で手を組む事)を望みました。勿論、報酬なんて望んでいません』
「おい、まさか……」
『そのまさかです』
ここで乃人はハッキリ理解する。自分たちが彼らにとってただの恐怖の対象でしかなかった事を。全く信用されていなかった事を。邪魔者としか見られていなかった事を。
「じ、じゃあなんでジオル肯定派を殲滅しろなんて課題が出たんだよ‼」
認めたくない現実に自然と語気が強くなってしまう。
『そうですねぇ……可能性はいくつかありますけど、一番私の中で有力なのは『いい訳』ですね』
「いい訳?」
乃人は考える。もしこの会話が真実なら。そして自分がお偉いさんだとしたら。
「……はっ」
『分かりましたか』
自分たちよりも力のある文明が手を結ぼうと言っている。しかし相手の本当の目的は分からない、それに裏切られる可能性も十分にあり、そうでなくても文明が進んだ相手に徐々に吸収される。それに加え相手はいつでも平行世界の壁を壊し、自分たちを攻撃出来る。自分たちから攻撃出来ないのでは戦争をしようと勝ち目はない。手を結べば話し合いにより浸食され、手を結ばなければ武力行使で侵略される。ならどうすればいいのか? どちらを選べばいいのか? 答えはどちらでもない第三の答え。
「つまり自分たち的には手を結びたいたいけど、結べない理由があるからひとまずお引き取り願います、って事か……始め断っていたのはこの事に信憑性を持たせるため……」
それが幻影の集団、ジオル肯定派の正体。
そのありもしない結べない理由を乃人たちに押し付け、乃人たちは存在しないそれを延々と探し続ける。しかし、これはあくまで時間稼ぎでしかない。どうしても見つからなければ武力行使で侵略した方が楽だからだ。おそらくそれはお偉いさんも把握しているだろう。
「じゃあ、こんな時間稼ぎに意味なんてあるのか?」
『お偉いさんにとっては時間稼ぎが出来ただけで十分なんですよ』
「……どう言う事だ?」
考えたが、分からないので翼に聞く。
『乃人さんは会っていないから分らないと思うんですけど、お偉いさんたちは皆もうご年配の方だったんですよ。つまり自分が引退する後少しまでの時間が稼げればいい、と言う事です。まあ、私たちがこんなに早く気付くのは予想外かと思いますが』
自分の事さえ良ければ他人がどうなろうが知った事ではない。それが人間の醜い点でもあり、美点でもある。お偉いさんや大多数の人間はそれに忠実だ。乃人もその一人、そのせいで雅を失った。乃人もお偉いさんと同じだ。少し前の自分を見ているようでムシズが走る。
「ふん、どの世界でも人間は自分の欲に正直なものだ。欲を望み、欲を高める、それが人間だ」
『おっ、いただきました、名台詞……で、どうしますか? 乃人さん』
「なにをだ?」
『この件でお偉いさんとの話し合いの場を設けても私たちにはお偉いさんたちを追い詰める核たる証拠がありません。このままでは話をする事は疎か、連盟の話もなしになってしまいます。残された数少ない手で最も有力なのは……武力行使です。つまりは戦争です。支配です。しかしそれは私の決める事ではありません。全ては平行世界の壁のその向こう側に行ける唯一の存在である波佐間乃人さん、あなたにあります。あなたの異能がなくては我々は平行世界と繋がりを持つことは疎か、ジオルの世界を破壊する事を諦めなければなりません。つまりはあなたは我々の最後の希望です。ですから……乃人さん、あなたが決めて下さい。この世界を支配するのか、しないのかを。戦争をするのか、しないのかを……』
乃人はその質問に考える素振りを見せずにいた。
ジオルと戦う理由がないのに戦おうと言われ、それを断ったら武力行使で支配される。支配される側にとっては不幸極まりない話だろう。それは乃人自身も思う。しかしこの世は所詮、弱肉強食、絶対的な力の前には弱者は従うしかない。支配されるしかない。喰われるしかない。
「俺はこの世界を支配……ッ‼」
乃人は話を中断すると、突然前に飛んだ。前回り受け身のように飛んだ乃人は瞬時に先程まで自分の立っていた場所を視認する。
バチバチッ‼‼ バチッ‼‼ バチバチッ‼‼
そこには電気で形どられた一本の巨大な槍が突き刺さっていた。
槍は地面に触れた事により放電され、一瞬でその姿を消す。
少し焦げた臭いが乃人の鼻孔に入る。
見ればズボンには少し燃えた痕があった。
「たくよ~、お前は後頭部にも目があるのかよ?」
声がしたのは一本の木の上だった。そこには葉が生い茂っていたが、目を凝らすと確かに一人の少年の姿があった。
「残念だがこれは俺の異能のオマケ効果だよ」
乃人は自分が死ぬ瞬間に∞の発動が可能になる。乃人はだから当たる前に分かった。このままでは自分は次の瞬間殺されると。
「やっぱりお前も敵だったのか……黒髪」
「…………」
白髪の乃人の問いに答えるかのように黒髪の乃人は次々と電気を飛ばした。
そんな感じはしていた。
お偉いさんたちが敵ならその連絡の受け、俺を泊めようとした母さんと黒髪も敵だろう。
お偉いさんが出来るだけ公の場でジオル肯定派の話をするなと言ったのも、俺たちにジオル肯定派は本当は存在しない事を少しでも遅らせるため。
木の上から黒髪は白髪を見下ろす。
「雅が家に来た時は焦ったよ、まさかお前が大胆な行動に出るとは思わなかったからな。お前に携帯を持たせて正解だったよ」
乃人が警察に連行された事を母親である恵に伝えに行った時に黒髪も知ったのだろう。
彼の言葉から察するに白髪が恵から渡されたスマホもどきがGPSの様な働きをしていたのだろう
俺のために流してくれた母さんの涙も、一緒に楽しい一時を過ごした黒髪も、あれは全て演技だったのか、と白髪は心の中に小さな虚無感が生まれる。
しかし、そうと分かっても白髪にとっては新たな謎が増えるだけだった。
白髪は黒髪の攻撃を避けながら問う。
「なんで俺を泊めようとした? 寝込みを襲って殺すつもりだったのか?」
黒髪は不適に笑いながら答える。
「ふん、殺す事だけを考えるならそんな事はとっくにやっている。だがそれで次の刺客に来られてお前を俺たち(この世界の人間)が殺した事が原因で戦争になっては元も子もないんだよ。だから食事毎にお前の料理だけに少しずつヒ素を入れる計画だったんだが……計画が狂っちまったよ」
ヒ素は毎日少量ずつ摂取させれば死体からは証拠が出ないため、よく刑事ドラマや本当の殺人事件にも使われるものだ。そしてヒ素を少量した摂取した時の症状はいろいろあるのだが、その中には身体が怠くなる、と言うものがある。
「ッ⁉」
一瞬、今朝の寝起き時の事がフラッシュバック、精神的動揺により白髪の動きが鈍り、黒髪の電気が彼の服の一部を焦がした。
「でもさっきのお前たちの会話で分かった事がある。それはお前がいなければこの世界はいつまでも平和って事だ‼」
黒髪は白髪を中心に電気で円を作る。するとその電気に反応した多量の砂鉄が廻りながら白髪を囲んだ。
白髪は足元に落ちていた落ち葉で廻る円に触る。
ッシュッ‼
落ち葉は見事に触れた部分だけが粉々に切れた。
「先程お偉いさんたちに説明して異能者の応援を計五〇人頼んだ。車で一〇分もしないで来るからお前はそこで大人しくしておけ。安心しろ、世界が違くても俺とお前は同じ人間だ。殺されないようにかけ合ってやるよ。だが妙なマネをしたら俺はお前を躊躇なく殺す」
「分かった」
と素直に言いつつも、
(なあ、羽島、どうすればこの状況を打破出来る?)
(…………)
小声で翼に話かける白髪だが翼からの反応がない。どうやら黒髪の電気で周りの磁界が狂ったようで使えなくなったらしい。
「ちっ」
白髪は小さく舌打ちをすると自分の胸ポケットに手を突っ込んだ。
その瞬間、彼の前に電撃が落ちる。
「妙なマネはするなと言ったはずだが?」
「か、かゆかったんだよ」
白髪は冷や汗を流しながら黒髪には見えないように、今までずっと身につけていた小箱を指で器用に取り出した。それはこの世界に来る前に翼からもらっておいたお守りだった。
この世界の異能はどうやら言葉に発さなくてもいいらしい、なら異能発動までの時間はタイムラブが出る俺の方が明らかに不利だ……残りは約八分、もし俺が捕まったら俺は一〇〇%殺される。ヤツが殺さないようにかけ合うとか言っているが、ただの一般人の言葉にお偉いさんは耳を貸さないだろう。自分たちが良ければなんでもするヤツらだ。トラブルの原因である俺はすぐに殺される。じゃあ、考えろ。なあに、簡単な選択だ。無抵抗のまま殺されるか、抵抗して生きる可能性に賭けるか……考えるのも馬鹿らしい。この世界の雅は無事だったからいいけどよ、他の世界の雅が無事とは限らないだろ?
白髪は片手で小箱を開ける。
「この馬鹿がッ‼」
その彼の行動に反応して黒髪が彼に電撃の槍を放った。しかし、白髪は素早く箱の中の人工ダイヤが埋め込まれた指輪を取り出すと、空になった小箱をその槍の先端に投げつける。
雷は高い場所に落ちやすい性質を持つ。黒髪が放った雷撃の槍は自ら白髪の放った箱に近付き、直撃する。その瞬間、激しい爆音と眩い閃光を放ち、雷撃の槍は霧散した。
「クッ‼」
黒髪は手で目を隠し、二つ目の槍を飛ばすのが一瞬遅れた。そして白髪はその一瞬で指輪を左手の薬指につけていた。
「力を貸してくれ雅! 『∞』‼」
二発目の電撃の槍が白髪に直撃する瞬間、彼をおびただしい数の刃物が囲んだ。それはピッタリと他の刃物とくっ付き、電撃の槍を弾いく。そして乃人の身体に隙間なく張り付き、一つの鎧となった。
「なに⁉」
「これが俺と雅の異能の結晶『∞(アンリミテッド)・(・)刃物(カットリー)形態(フォルム)』だ‼」
その鎧は角々がとても鋭くなっており、そこに触れただけで大抵のものは斬れると言える程だ。その他に、全体にも鋭い棘が無数にあり、近寄るもの全てを拒むかのような、刃物そのものを連想させる銀色のフォルムだった。
「さあ、残り五分の最終決戦(ラストバトル)としゃれこもうか‼」
白髪は大剣を作り出し、木の上に立っている黒髪に投げつけた。
雅がジオルに殺され、乃人がクロエに脳天を蹴られて気を失った後。
「乃人さん、それではあなたは雅が死んでからも雅さんの異能で∞が使えたんですか?」
「ああ、そうなるな」
「……それはおかしいですねぇ……」
「なにがだ?」
「いや、だってその時は雅さんはもう亡くなっていたんですよ。それでしたら今までこの世界で亡くなった人類の異能者の数だけ乃人さんは異能が使える事になるじゃないですか……あなたの異能はそんなに都合のいいものなのでしょうか?」
「確かに……」
翼が考えるように乃人も考える。
自分の異能はそんな便利なものではない。もしそうだとしたら自分は『蘇り』の異能が見つかるまで探し続け、雅を蘇えさせる。しかしそんな事は不可能だ、この世界はそんなに甘く出来ていない。
「……そう言えば俺は∞を発動する時、雅の首を抱いていたな……」
乃人のこぼしたその言葉に翼の目が光った。
「首を……抱いていたんですね?」
「あ、ああ、確かに首を抱いていた」
この後、乃人は死者でも身体の一部——DNAが自分の身体の一部に触れていれば死者の異能の∞が使える事が判明。
平行世界に行く一週間後までに雅の死体を使った指輪を製作するように翼に依頼すると、乃人は帰って行った。
そして一週間後、雅の死体からは骨が使われ、それは人口ダイヤとなり乃人のところに戻って来た。
指輪にした理由は雅と結婚出来なかったからだ、と彼は言う。
3
「さあ、残り五分の最終決戦としゃれこもうか‼ 『巨大刃物』&『行け』‼」
白髪は大剣を作り出し、木の上に立っている黒髪に投げつけた。大剣は回転しながら黒髪目がけて向かっていく。
しかし黒髪は一歩横に動くだけでそれを交わした。
「そんな見え見えの攻撃が当たるかよ!」
「それが当たっているんだよ」
「なに?」
その時、
ミシッ……ミシミシッ……。
黒髪の隣から奇妙な音が聞こえた。
「まさか⁉」
音がしたのは木の枝だった。それは黒髪が乗っている枝でもある。本来、人一人の体重を支えるのも造作もない程に太い枝だが、今では切れ込みがあり、黒髪と枝自身の重さで折れかかっていた。
「いい事を教えてやんよ黒髪、空中では身動きが取れねぇんだぜ!」
その言葉を合図にしたかのように枝がボキッと言う音を立てて折れる。その枝には黒髪が乗っており、このままだと垂直落下で地面に激突する。
黒髪は自分が乗っていた枝を踏み台にして、別の枝に飛び移ろうとする。
「言ったはずだぜ、空中では身動きが取れねぇってな!」
白髪は両手に剣を精製すると、好機とばかりに別の枝に飛び移ろうとする黒髪に投げつけた。しかし、
バリバリッ‼‼ バリッ‼‼
「俺には電気がある、知っているだろう?」
今度は黒髪の出した電撃が剣を弾いた。
普段なら「ちっ」と舌打ちをする白髪だが今回は違った。
「ふん、その程度がどうした」
「なんだと?」
場面とは合わない勝ち誇った白髪の笑みに黒髪が疑問を抱く。
白髪の顔はまるで相手が自分の思うつぼにハマったのを確認した策士のようないやらしい笑みだった。
「お前も耳を澄ませば聞こえてくるはずだ。ビュンビュン風を斬りながら返って来る大剣(死神)の足音が!」
「なにっ⁉」
黒髪は背後を振り向くとそこには……なにもなかった。
「あれ?」
「隙あり! そんな器用な事が出来る訳ねぇだろ、バカが!」
ってか、そんな作戦があったら敵に教えるかよ!
「しまった!」
黒髪は白髪のはったりだと気付くが時すでに遅し。
「『消去』&『大刃物』&『行け』!」
白髪が新たに放った数本の剣が黒髪を串刺しにする、と思われたがその剣が彼に直撃する事はなかった。
「「ッ⁉」」
二人がその光景を眺めて驚愕の顔を浮かべる。
「ふぅ~間に合った~。ちょっと二人共、危ないマネをしているんじゃないわよ。あちこち探して正解だった」
この二人の同一人物は剣が当たらなかった事に驚いているのではない。この場にいてはいけない人物、二人が最愛する人物、二人が巻き込みたくない人物、美鈴雅の登場に驚いた。
「雅、なんでここに⁉」
黒髪が驚きの声を上げる。しかし忘れてはいけない。黒髪は雅の何らかの異能により剣による串刺しは免れたが、現在進行形で垂直落下中だ。重力には逆らえない。
「乃人! 落ちてる落ちてるッ!」
「あっ、やべえええええぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇッ!!!!!」
黒髪と地面の間は約二〇m。一般的な人間が恐怖を覚えないギリギリの高さ。足や手から落ちれば運が良くて骨折する程度だがそれ以外から落ちれば命の保証はない。
「ちっ、馬鹿が! 『消去』&『大刃物』!」
白髪はいち早く頭だけ鎧を解除すると、それと同時に作りだした剣で自分の頭に攻撃した。
残り約一五m。
そして白髪の脳内にはこの世界(・・・・)の光景が流れる。
それはこの町の光景。
子供たちがジオルに脅える事なく伸び伸びと育ち、雅が生きている。彼女の隣に寄り添うのは現在落下中の黒髪。二人共笑い合いとても楽しそうな光景。白髪にはもう一生届くはずのない光景。羨ましい光景。しかし、だからこそ。白髪がどうしても、何がなんでも、どんな事をしてでも守りたい、守り抜きたい、守り抜からなければいけない光景。
「キタっ!『∞』‼」
白髪が叫んだ瞬間、彼の頭を攻撃する剣は頭皮を一枚切ったところで光の粒となった。彼の身体の鎧や投げた剣もそれに続くように次々と光の粒となり虚空に消え無へと帰る。
そして次の瞬間、白髪をバチバチと音を鳴らした青白い光が覆った。
その正体は電気。黒髪を対象にして発動した白髪の異能——∞。
『∞(アンリミテッド)・(・)電気(エレクトロ)形態(フォルム)』
それが今の彼の状態だ。その場に合わせて(限度はあるが)好きな異能を使える。
これが∞。
残り約一〇m。
白髪は一言唱えると早速異能を使い、周りの砂鉄の円を壊した。
「黒髪、生きたきゃあ俺に電気を放ち続けろ!」
「はああぁぁぁぁ⁉⁉ どう言う事だよぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉッ⁉⁉」
「この馬鹿! 生きたくないのか! 雅とイチャイチャしたくないのかッ‼‼」
「……ッ‼‼ んなのしたいに決まってんだろうがぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁッ‼‼‼‼‼」
残り約五m。
「『電気(エレクトリック)』&『結合(CONNCT)』‼」
白髪は黒髪が放った電気に自分の電気を当て、瞬時に強弱を微調整し磁力により電気を放った黒髪ごと自分の方に引っ張る。
「うおおおおぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉっ!!!!!」
黒髪は白髪の方に引っ張られ地面への直撃はスレスレで免れる。しかし黒髪の落下中についた運動エネルギーは生きており、彼を受け止めた白髪は苦悶の表情を見せた。
「ぐっ!」
白髪の身体からグキッと言う音を出しながら二人は転がるように倒れ、そこに雅が駆けつける。
「ちょっと、二人共大丈夫⁉」
「か、身体が少し痛ぇが……大丈夫だ」
黒髪はグーサインをしながら顔を上げたが一方、白髪の方は……。
「ぐっ……ぐはっ!」
盛大に吐血した。二〇mの運動エネルギーを纏った人間を正面から受けとめたのだ
。内蔵を痛めるのが普通だ。
「ちょっと、大丈夫⁉ ねぇ……白髪さん! 大丈夫なの⁉ ねぇ、白髪さん!」
白髪は平行世界の乃人だと(平行世界の存在を知らない)分からない雅は少し考えてから、誰にでも通じる 白髪は平行世界の乃人だと(平行世界の存在を知らない)分からない雅は少し考えてから、誰にでも通じる呼称で白髪の乃人を呼ぶ。
「ちなみにこいつといる時の俺の呼び名は黒髪でよろしく」
「五月蝿い馬鹿! 訳分からない事言ってんなら引っ込んでいて!」
「これが引っ込んではいられないんだ」
黒髪は雅の罵倒をものともせず立ち上がると白髪を見据えた。
「なんで俺を助けた? あのままなら死んでいたかもしれないんだぞ」
「……だからだ。そのくらい分かれよ、俺……ゲホッゲホッ……お前を殺したら雅を悲しませるからに決まっているだろ」
白髪は血を吐きながら答えた。額には脂汗が流れ落ち、顔を苦痛に歪ませる。
「そんな嘘が通用するかよ。ならなんで空中にいる俺に剣を飛ばしたんだよ。雅が来なかったら俺は串刺しになっていた」
「剣の先端は尖っていなかった。予め丸めておいたんだ、あれが当たっていてもお前は衝撃で気を失うくらいだった。どんな異能かは知らないが止めた雅には見えたはずだぜ」
「なに?」
黒髪は雅を見ると雅は無言で頷いた。
「私も始めは危ないと思ったんだけど、止めて見たら丸かったわよ」
「……そうかあ……分かった、俺はお前を助ける。が残り時間は後約二分。これじゃあ終わりだな。雅、お前は帰れ。お前まで巻き込まれる事はない」
「はあっ⁉ あんたふざけてんじゃないわよ! あんたが死んだらこの先私はどうすればいいのよ! 私はあんたがいなきゃ生きていけないの! だからあんたが死ぬんなら私も死ぬ!」
「この馬鹿! 逃げろよ!」
「逃げない!」
「逃げろ!」
「逃げない!」
「逃げろ!」
「「…………」」
ああ、羨ましいな……。
「ゲホッゲホッゲホッ‼」
「ッ! と、取り敢えず隠れるぞ! 俺は身体を持つ。雅、お前は足を持て」
「わ、分かった!」
急いで白髪を運び出そうとする二人。しかし時計は残り約一分を指していた。
計五〇人の異能者集団を乗せた複数の車のエンジン音が微かに聞こえ始める。
「ま、待て……」
白髪は自分を運ぼうとする二人を止めると、この町を囲む壁を指差した。
「俺に……ゲホッゲホッ、考えがある」
4
この町を囲む壁を出る際にはバイト許可証が必要だ。これは壁の外に出る時も、戻る時も必要で白髪が始めてこの世界に来た日に黒髪が外の見張りに見せていたものでもある。
昨日の今日もあり、まだ国から渡されるバイト許可証を携帯していた黒髪は白髪の支持通りに正規の方法で門を潜り、壁の外に出ていた。
この件に関して、雅を巻き込む訳にはいかない。
黒髪の考えに賛成してくれた白髪の説得もあり、雅は壁の中で大人しくなりを潜めている。だいぶ膨れていたが……後で何か買ってやろう。
「でも白髪のやつ、一人にして大丈夫だったんか? 考えがあるって言っていたけど……」
門を少し出たところで心配気味に待っていると、遠くから声が聞こえてきた。
「おーい」
声のした方を見るとそこには剣の鎧に身を包んだ白髪が大剣に乗って空を飛んでいた。白髪は徐々に降下すると、黒髪の前に止まり「待たせた」と言う。
「これがお前の考えか?」
「そう、これが俺の考え。空を飛んでゲホッ! バレないように逃げる」
血を吐きながら答える白髪だがここで黒髪にはある疑問が浮上した。
「俺まで逃げる必要があったのか?」
追われているのは白髪だ、断じて黒髪ではない。
「あのお偉いさんの事だから、全てを知って尚且つ、任務に失敗した人間は口封じとして殺されるかもしれなゲホッ! いだろ。よくあるだろ、アニメとかで」
「た、確かに……ま、待てよ。じゃあ俺たちはこれからどうすればいいんだ⁉ このままじゃあ母さんも殺されちまう‼」
「心配すんな、既に手は打ってある」
白髪は「そこで待っていろ」と言うと、黒髪を残し遥か遠くへと消えていった。
二人と分かれた白髪は飛びながらカメラのボタンを押した。
「はぁはぁ……羽島、聞こえるか? ゲホッ……後もう少しで着くから例のものの準備を頼む」
肩で息をする彼の顔には苦痛と脂汗が流れていた。
『かしこまりました。ただちにご用意致します』
翼はそれだけ言うと周りの科学者たちに忙しく指示を飛ばし始める。
例のもの。
それは二人と分かれた後、壁を飛んで超える前に乃人が翼に頼んでおいたものだ。
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