僕と彼女の話。

成瀬 碧

僕と彼女の話。

水に黒の絵の具を混ぜた様な空。

商店街の路地裏の入り口で僕は雨に濡れていた。

目の前を傘をさした人たちが通り過ぎて行く。

俯いて、コンクリートの地面に座り込んだ。

地面の凹凸に水がたまっていく。

当たる雨が冷たい。


少しして、雨が当たらなくなった。

雨が止んだのかと思って顔を上げると一人の女性が立っていた。

「大丈夫?」

その人は水色の傘を僕に傾けてくれていた。雨はまだ降っていた。

その人はさっと傘を閉じて僕を抱きかかえ、雨の中を駆けた。

初めて感じる温もりに僕はいつの間にか眠っていた。

目が覚めるとあの女性が僕のことを見つめていた。

雨の中を出会った時の服とは違った。

どこだろうと思って体を動かすと、自分の体がふわふわと気持ちの良いものに包まれているのに気づいた。

「大丈夫よ…」

そう言ってその人は僕の体を優しく撫でた。

その優しさに僕は初めて安心をした。

それが僕と彼女の出会いだった。


彼女は商店街の近くのアパートに住んでいて、毎朝電車に乗って大学まで行っている。僕は出会ったあの日から一緒に暮らしている。

毎朝僕が先に起きて、彼女を起こす。

彼女の頬にそっと触れると、パチリと目を開けて

「おはよう。」

と言って、微笑む。

朝ご飯を食べて出掛ける準備をしたら彼女と一緒に家を出て、商店街や公園を散歩する。彼女が大学へ行っている間はいつもこうだ。

夕方になってアパートに戻れば、彼女が帰って来ていて。

夕飯はいつも一緒に食べ始めるけど、先に僕が食べ終える。

彼女が大学の課題を課題をやっている間、じっと彼女の手元を見るのが好きだ。

本当は彼女にかまってほしい。

でもそんな事を言えない。

彼女がベットに入ったら、僕も一緒に入る。

そして、彼女は僕を抱きしめて眠る。

彼女が僕を抱きしめている時が一番幸せだ。



今日は朝から雨が降っている。

彼女を起こした後、僕は窓の外を見ていた。

雨粒が窓に当たり音がなる。

準備を済ませ、玄関の扉を開けた彼女が

「今日も散歩するの?」

ときいてきた。

僕は何も言わず、彼女が開けている扉を通った。

傘をさした彼女の横を歩く。

商店街を通って駅までついて行く。

駅に着くと彼女は本を取り出して読み始めた。

僕は少し離れたところで電車が来るのを待つ。

すると、一人の男が彼女に話しかけてきた。

彼女は嫌そうにしている。

離れようとする彼女の腕をその男が掴んだ。

ー彼女を助けないと

そう思って僕は彼女のほうへと駆け寄り、男に飛びかかり、腕を爪で思いっきり引っ掻く。

「痛ぇなぁ、なんだよお前!」

男が彼女から手を離し、僕を蹴り飛ばした。

僕の体が宙に浮き、地面に頭から落ちた。

意識が朦朧とする。

体を動かそうとするも、手足は動かない。

彼女が僕に駆け寄り僕の名前を呼ぶ。

僕はなんとか口を開けて声を出そうとしたが、出ない。

彼女は泣きながら、僕を撫でる。

彼女の涙が僕を濡らす。

彼女の手がいつもより温かく感じた。




ーさようなら…ありがとう…

そして僕は目を閉じた。

















これが猫の僕と彼女の出会ってからの話。

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僕と彼女の話。 成瀬 碧 @egfk

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