始まる前に終わっていたんだ。
いまだ こず
第1話
「飯、奢って」
それが人にものを頼む態度かどうかはさておき、愛想だとか、健康的なといった言葉と無縁なのがこの友人の通常営業である。とにかく、陽の高いうちに呼ぶとか、そういう配慮も皆無の暗い気配で休みの日に呼び出された。
「久々だね。生きててなによりだけども」
「寒いんだけど!はやく店はいろう!」
「好きにしてくれ…」
これが20代半ばの女2人の会話である。たしかに北国の12月など、クリスマスが白いのは当たり前ではしゃいでいるおめでたい人種には寒さを感じるセンサーが壊れているんだろうと思う程度にひねてはいたものの、半年ぶりに連絡が来たと思えばこれだ。味気ない。
「好きなもの食べなよ」
のセリフの前におおよその注文を読みあげ、私に店員を呼び注文をするよう無言の指示がくる。
「おごりだよね!?」
「半年ぶりに呼び出しておいて財布になれと。まぁいいけど、お前に奢らせようなんて思ってないわい。」
別段友達がいないわけでも、弱味を握られているわけでもない。ただ、友人としての最低限の何かを期待するのは間違いだと知っているだけである。こいつに限った話ではないが、こいつにおいては1ミリも期待してはいけない。
「ところで」
黙々と作法的な話をすればきれいとは言い難い食事中の友人に話しかける。
姿形は変わっていない、男がいる間は全く音信不通になるのも変わってはいない。同性の友達など男のいない穴埋めだと言わんばかりの態度は出会ってから10年変わっていない。
「寝れてんの?ご飯食べるの久々とかじゃないだろうね?」
顔が真っ青である。生気まで失ってお前に残るものなどあるのか。一友人として、尋ねた。
「旦那が、浮気をした。」
皿の上は修羅場が去った現場のような有り様だ。
始まる前に終わっていたんだ。 いまだ こず @imadakozu
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