第3話 へん蚊


 俺は居間で目を覚ました。


 夢…だったのか?さっきまで蚊になっていたような気がしたのだが。


 辺りのものは巨大ではなくなり、いつもどおりの風景だ。


 俺はソファーに腰掛けており、テレビではニュースが流れていた。ニュースキャスターが近隣で交通事故があったことを報じている。部屋には夕日が差し込み、窓の外ではひぐらしが鳴いていた。


 「ん?」


 しかし、すぐに違和感に気づいた。


 指に、長い付け爪がついている。そして胸のあたりになにやら重みが…。


 アレがある–––––!そしてアレがない–––––!?


 居間の姿見を見ると、それは紛れもなく妹の姿だった。


 なんてことだ。今度は蚊から妹になってしまった!





 しかし、どうしてこんなことになったのだろう。訳がわからない。


 俺はソファーに腰掛け、逡巡した。


 あまりにリアルな感覚。これは夢ではないはず。現実だ。だって太ももの蚊刺されの痒さだって感じる。


 俺は妹が蚊に刺されたであろうその赤い小さな腫れをぽりぽりとかいた。


 「あ」


 ここは蚊の俺が血を吸ったところではないだろうか。


 場所をよく確認する。腫れは左足の太もも。確かに、ここに針をつきたてた。


 もしかして、蚊に血を吸われたから人格が入れ替わった?


 となると、まずいのではないのだろうか。


 俺はソファーから立ち上がる。


 俺の推測が正しければ–––––。


 「きゃああああああ!」


 居間に悲鳴が響いた。


 あれは俺の弟の声だ!


 俺は悲鳴がした風呂場へと向かった。


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