参:「紋、戦場、妖精」
その時、ユウスケは戦場にいた。
場所が違えば、森の妖精とでも言われそうなギリースーツを着込み、茂みの陰から、愛用しているL96A1の銃口を敵の頭部へと定め、今まさにトリガーを引こうと指先に力を込める間際だった。
ガクン、ガクン、と体が揺れ、そして世界が暗転した。
暗闇に、虚ろな目の男が浮かび上がった。一瞬は混乱したものの、それが画面に反射している自分の顔である事は理解できた。しかし、脂ぎった指紋がベタベタとついたキーボードや、絡まり合った電源コードの状態はいまだ理解できずにいた。
家が悲鳴をあげている。この地震によって倒壊するという予感が脳裏を掠める。
倒壊しなかったとしても--。
その後、家がどうなったかはわからない。
とにかくユウスケは、災害直後から数えて世界で最初の自殺者となった。
しかし、最後の自殺者とはならなかった。
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