第21話 城

 一番に感じたのは指先。操縦桿から伝わる微かな振動。


 微かな振動は、違和感に変わり。そして、疑問に変わる。

「揺れている?」

 正面のキャノピー越しに周囲を見る。

「どうされました。王子?」

 団長がいち早く異変に気が付く。

「地震か? 揺れているようだが…。」

 その時には団員全てが感じていた、この揺れに。


「各自。警戒体制。」

 素早い対応は、王子の直轄(ちょっかつ)の団と言うところか。



 収まるどころかより激しくなる地震。森が揺れている。


「や、山が動いてる!!!」

 拡声器を通して、悲鳴にも似た報告。


 この場に居た全魔動人が、一斉に見る。


 本当に山が動いていた。それは『のっしのっし』と表現はこの時のためにあったのだと思えた。

「あれは…。城魔獣(じょうまじゅう)。」

 こちらの世界で言うところの《ヤドカリ》に似ていた。そのサイズの除けば。 大きな城を背負った様に見える魔獣。言うまでもなく、それが名前の由来。

「まさか、こんな所にいるとは…。」


 城魔獣の踏み出す脚が、地震の元となりゆっくりとこちらへと向かって来る。

 ゆっくりとはいえ、サイズがサイズなので直ぐに近付くだろうと考えるまでもなく判る。



「こんな国境に近い場所に出現するとは…。」

 過去、何度かの出現情報が確認された城魔獣。その度に国が滅んでいた。


「すーっ。」

 吸い込み、

「はーっ。」

 吐く。

「よし!」

 決断した。

「団長!」

 大声が更に拡声器で大きくなった。

「ここに!」

 直ぐに反応した。

「アレは、持って来ているのか?」

 少し躊躇(ちゅうちょ)し、

「後方に…。ですが、アレは

まだ…。」

「判っている!」

 食い気味で遮り、

「ここで試験してやろうと言うのだ。」

「それは、危険では…。」

「あの城魔獣を放って置く方が、危険だと思うが…。」

 王子の決意は堅い。

「後方、約500㍍に技術責任者と共に…。」

「よし! そこまで後退するぞ。」

「はっ。」

「銀の剣団は、先に後退し準備を伝えろ!」

「ですが…。」

 団長が言いかけると、

「こちらの魔動人の方が脚が速い。足手まといになりたいか!」

「御意!」

 言うが早いか、

「銀の剣団。全力後退。装備を捨てても構わん。」

 指示を出す。


 銀色の魔動人は、手にしていたランス、シールドを直ぐ様捨て全力で駆け出す。

 軽くなった分速度が増していた。


「よし。」

 銀の剣団の後退を見届け、

「こちらは少し時間稼ぎを…。」

 考え、

「と、言ってみたももの飛道具は無しだな。」

 笑った。

「ならば!」

 金色の大剣を背中に納刀し、地面のランスを拾い上げる。

「少しは、こちらを気にしてくれると嬉しいのだが。」

 全力で、城魔獣へと投擲(とうてき)した。



 投げられたランスは、城魔獣の外殻を軽くえぐり刺さった。

 が、全く気にしていない。

「まっ、そんなもんだろう。」

 次のランスを投げる。


 最初は気にもしていなかったランスだが数が増えると、明らかに苛立ったようだ。

「少しは、効果ありか。」



 『ヒューーー!』と空に煙の尾が伸びる。

「準備完了の合図か…。」

と、手にしていたランスを投げる。

「おまけだ。」

 新型魔動人を反転させ、全力疾走。

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