第19話 戦い
それは、魔獣なれども可哀相という表現が当てはまった。
茂みから飛び出す新型魔動人。
完全に意表を突かれ慌てる間も無い一瞬。
新型魔動人が繰り出す大剣の金色(こんじき)の一閃が、一匹の魔獣トーリスの首を跳ねた。その表現の通りに、宙を舞う頭は赤い尾を引く。
その状況を目の当たりにし、直ぐに戦闘の体制をとった二匹は、流石魔獣といったところか。
新型魔動人の正面を避ける二匹。一定の距離を保ちながら左右から挟み込もうと回り込む。
「魔獣め、やるではないか。」
王子は、楽しそうに言う。
左右に別れた魔獣は、その姿に相応しい鳥に似た鳴き声で威嚇する。
右手側の魔獣が膝を溜める動作。それを見逃さない王子は手練(てだ)れの剣士。
「来るか!」
気を取られた刹那。左手側の魔獣が襲いかかってくる。
「くっ!」
左に構えた盾に全身で飛び付いた魔獣は、そのまましがみつく。
剣で払おうとするが盾が邪魔になる。
「判っていてやっていのか…。」
魔獣の知性に感心した。
『ドスン』と言う音で機体が前のめりになり、バランスを崩す。
「ちぃ!」
舌打ちをし、操縦桿で転倒を回避する。背後に設けられた窓が魔獣で塞がれていた。
「二匹が、しがみついているのか…。」
次に、コックピットに響くのは機体を噛じる音。
「魔獣よ。この新型魔動人を甘く見るな!」
操縦桿に力を込めるとコックピット内にあるパネルの輝きが増す。
「今までの魔動人とは、違うのだよ!」
王子の気迫が新型魔動人の力を引き出す。
両腕をクロスさせる様に、全身の力を溜める新型魔動人。
「はっ!」
王子の気合で開放される力は物理と魔力。しがみついていた二匹の魔獣が吹き飛び、樹の幹に叩き付けられる。
左の魔獣が藻掻きながらも、よろよろと立ち上がる。
そこに、金色の一撃が死をもたらす。頭を唐竹割りにされ、断末魔を上げる間さえ無かった。
「後、一匹…。」
立ち上がった最期の一匹は、金色の死神を見据え小さく鳴く。
王子が操縦桿に力を込める、まさにその瞬間、魔獣はくるりと向きを変え逃走を図る。
「逃がすか!」
操縦桿を押し込み新型魔動人を駆けさせる。
直ぐに魔獣に追い付いた。その速度に王子は驚き、そして喜びながら。
「最後!」
金色の軌跡が魔獣を二つにした。
「素晴らしい。新型魔動人は、これからの戦いを一変させるに違いない!」
歓喜に身震いする。
勝利の余韻に浸る王子の元へ、茂みを掻き分け銀の機体が続々と現れる。
周囲に展開していた銀の剣団が包囲を狭めた結果集結していた。
「王子。やりましたな。」
団長が魔獣に起きた惨状を確認し、歓喜した。
「団長。素晴らしいぞ、この新型魔動人は。これが量産された暁には、我が国の勝利が約束されるだろう!」
王子の声に熱い思いが籠もる。
熱弁の背後で、茂みが揺れ『ガサガサ』と音を出す。
「!?」
音反応し、向けた目が見たのは…。
森の奥へと消える魔獣トーリスの背中。
「もう一匹居たのか!」
言うが早いか、王子の反応に答え駆け出す新型魔動人。
「王子! 奥は安全が確保されていません!」
団長の機体が後を追い、銀の剣団の機体達も続く。
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