第18話 直前

「シオン殿。戦闘直前まで私が操縦します。」

 ゆっくりと機体を進ませ始めた。


 茂みを掻き分け、なるべく静かに風下から進む。

 方法としては、漫画やアニメで有名だが実際にやるとは思っていなかった。



 油断しているのか、戦闘の距離まで難なく近付ける。

 茂みの隙間から、三匹の魔獣トーリスが見える。


 機体と感応羊水を通して、王子の緊張が伝わって来る。短い深呼吸音。

「行きます!」

 その声で僕は伝心桿に両手を乗せる。


 王子の目の前にあるパネルに淡い光が灯る。

「接続確認。」

と、小さく。そして、右のサイドパネルの一部をスライドさせる。それは、巧みに隠されたボタン。

 ボタンは三つ列んだ、青黄赤の三色。私達の知っている信号と同じ配色。


「麻酔注入。」

と、青色のボタンが押し込まれる。

 同時に、透明な感応羊水の中に濃い透明な液体が混ざる。それが見えるのは屈折率の違い。


 訓練の時、感応羊水の中で機体に接続すると、少しぼんやりしていたが、今日は実践の緊張なのか、いつもよりぼんやりが激しい。


 しばらくの後に、押し込まれた青いボタンがポンと軽い音と共に元の位置に上がる。

「脳幹接続開始。」

 次に押し込まれたのは、黃色のボタン。


 シオンの座るシートのヘッドレストレイン(頭当て)の部分から、長い針が付いた太い注射器がアームに支えられ飛び出す。

 そして、シオンの盆の窪から長い針が入って行き、脳幹に届いたところで止まる。


 先程と同じで、黃色のボタンが音と共に元の位置に上がる。

「脳幹接続完了。」

 そう、先程の針は盆の窪から脳幹へ届いていた。


 最後に押し込まれたのは、赤いボタン。

「疑似記憶注入から、機体と接続。」


「シオン殿。おまかせしますぞ!」

 ぼんやりとした意識の中で、王子からの期待の声がかかる。

 任せてくださいとばかりに、僕は伝心桿に魔力を込める。


「疑似記憶の再生問題なし。」

 目の前のパネルが先程の淡い光から、濃い光に変わる。

「機体との接続順調。」

 コックピット内を満たす光が次第に増していた。

「予想、以上だ。」

 歓喜が表情に現れる王子。

「これなら、行ける!」


 操縦桿を押し込むと即座に反応し、魔獣トーリスへ挑む新型魔動人。

 

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る