第16話 出陣

 白い靄の中を一人歩く僕…。ここが何処だか判らないが、ひたすら前へ。

 そんな世界から僕を引き戻したのは、朝の雑多。声、音、匂い、光、それら。


 テントから這い出すと、

「おはようございます。シオン殿。」

「おはようございます。」

 反射的に返したが、この人は誰だったか…。

「お食事をお持ちしました。」

「ありがとうございます。」

 受け取ると、一礼し去って行く。思い出せなかった。



 食事を済ませる頃合いを見計らった様に、やって来たのは着付け担当、

「本日より、操縦着を着付けさせて頂きます。」



 操縦着を着込み、機体の元へ行くと技術責任者が待っていた。

「本日より感応羊水を注入します。」

 横に巨大なガラス容器が幾つも用意されている。ちょっとだけ憂鬱な気分になった。


「おはよう。」

 王子も操縦着でやって来る。それを見た時、これから本当に魔獣との戦いが始まるのだと実感できた。

 体が震えたのは武者震い、武者震いと自分に言い聞かせる。

「今日は、頼みますぞ。シオン殿。」

と、王子は『ポン』と肩に手を置く。

「はい。」

とだけ答えられた。



 感応羊水が満たされ準備完了。

「出陣!」

 王子の号令で、大地を震わせ魔動人の部隊が歩き出す。

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