第9話 動く

 向かったのは工房に隣接する施設。


 どこかで見たことがあるようなと、記憶を探る。


 検索中…。


 思い出した。確か[コロシアム]って名前の古代闘技場。こちらは、魔動人サイズのようだが。


 中は魔動人が部隊規模で戦っても十分お釣りが来るぐらい広い。


「止めろ!」

の合図。止まると直ぐ様牽引していたロープと家畜が外される。

 終わると次の作業が始まった。どうやら、固定用の木が外されている…。

 これは、動かす!?

「準備完了です!」

を聞き王子が、

「行きましょう。」

と。期待が高まる。



 新型魔動人の背中が腰の辺りの蝶番(ちょうつがい)を支点に下に開いていた。

 ハンガーデッキの階段を使い、そこまで登る。

 待っていた技術者が、

「開きます。」

 背中の真ん中のハンドルに手をかけ左に回す。『プシュー』という音と共に、肩の辺りの蝶番を支点に上に開き、椅子(いや、コックピットならシートだ)…シートがアームに支えられ出てきた。

 開いた中に見えたのは、期待通りのコックピット。早る気持ちが抑えられなくなり、身を乗り出した。


 どうやって動かすんだろう?

 あの左右にあるのは操縦桿か?

 全面はモニターじゃなくて、透明だな? ガラスか?

 好奇心が私の意識を想像の世界へと飛ばしていた。


「…殿。」

「…ン殿。」

「…オン殿。」

「シオン殿。」

 ようやく、呼ぶ声が聞こえた。

「ご、ごめんない!」

 慌てて謝るが、王子に対して使う言葉では無かった。

「シートへ。」

 促されたが、内心言われる前に座りたくて仕方無かった。

 平常心を予想い、

「はい。」

と、座る。良い感じだ。柔らか過ぎず、硬過ぎず。

「ベルトを締めてください。」

 技術者に渡されたベルトを止めていく。お腹の前で両肩からと腰を回すベルトが四本で一つに纏まる。

 少し動いてみたが、しっかりと固定されていた。

「これを…。」

 王子が直に手渡した。

「これは?」

 解っていても聞いてしまう。美しい紋様が彫り込まれたものの名前を。

「起動キーです。」

「なるほど。」

 『平常心』『平常心』と自分に言い聞かせるが、心はサンバのカーニバル。



 これで、僕もロボットのパイロットだ!

 その思いが逆に自分を冷静に、現実に引き戻した。


(あっ…。僕は操縦の仕方を知らない! ど、どうしよう…。)

「あ、あの…。」

「シオン殿。何か?」

「僕は、魔動人の操縦を知りません…。」


 流れる沈黙…。


「これは失礼を。」

 王子が頭を下げた。

「私(わたくし)も新型魔動人の完成に、舞い上がっていたようで、うっかり説明を忘れていました。」

と、笑った。

「この魔動人は、操縦ではなく…。」

 少し考え、

「一体化と言った方法で動かします。」

「一体化ですか…。」

「そうです。魔動人との一体化…。つまり、自分の身体と同じ様に動かすのです。」

「自分の身体と同じ!?」

 まさかの動かし方だった。

「両の伝心桿(でんしんかん)に手を置き、思考で動かすのです。」

「なるほど。それなら、直ぐにできますね。」

 ふと、疑問がわいたが…。今はどうでもいいとの思いで飲み込んた。

「シートの右横に赤いボタンがあります。押すとシートが操縦位置へ移動します。」

 シートの右側を探ると、赤と黒の並んだボタンがあった。

「押します。」

 『プシュ』と短い音と共にシートが定位置へセットされた。

「起動キーを差し左へ。」

 王子の指示通りにする。


 コックピット内のあちらこちらに光が点り、魔動人がください起動したと解る。

「本来ならハッチを閉めるのですが、今回はこのままここから指示を出します。」

「解りました。」

「伝心桿に両手を…。」

 両手を伝心桿にかける。

「では、『歩け』と…。」

「はい。」

 声に緊張がこもる。

「ゆっくりでいいですから…。」


 『歩け』『歩け』…。


 伝心桿が薄っすらと光り始めると同時に機体が微弱に振動する。


「動くぞ!」

 王子が周囲に警戒の命令。


 振るえる機体は、ゆっくりと右足を前に出した。踏み付けた大地は、辺りにも揺れを伴わせた。


 次に左足…。そして、右足。本当に自分が歩いているようだった。

 これなら、直ぐにでも乗りこなせそうだ。


 しばらく歩かせていると、

「止まってください。」

 王子からの指示。


 止まると、ハンガーデッキが運ばれて来た。

「シートの黒いボタンを押して、シートを後ろに。」

 言われた通りにすると、『プシュ』とシートがコックピットから排出される。


「流石、シオン殿。簡単に動かしてみせるとは、感服したしました。」

 王子を始め、作業員全員が笑顔だ。

「これより、シオン殿に合わせるための調整を行います。」

 言うが早いか、機体に人が張り付き作業を始めた。

「これよりは、調整と訓練の繰り返しがしばらく続くと思われます。」

 王子の言う事は、もっともだ。僕の為の機体なんだから。


「調整が終わるまでの時間を使い、お話をしておかないと…。」

 右手で、闘技場の一角を指し、

「あちらに。」

と、王子と僕の二人は機体を降り向かった。

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