第7話 工房

 見えて来たのは大きな建物。飾り気はなく、目に付くのは巨大な扉と黒い煙を吐くいくつもの煙突。

 近付くに連れ、建物から聞こえる喧騒が大きくなる。



 建物の前で、数人が集まり話し合いをしていた。



 こちらに気が付くと、中の一人が話を制し向かって来た。



 記憶が正しければ、第一王子の筈(はず)だ。

「おお、シオン殿。良いところへ。」

 大きな扉が、軋む音を立てながらゆっくりと開いていく。

「我が国の最新の魔動人(まどうじん)が完成したのです。」

 その言葉に誘われるように大きな扉の奥を見た僕の心臓は飛び出しそうになった。

 そこには、僕が求めていた真新しい金色(こんじき)の巨大人型兵器が木で組まれたハンガーデッキに鎮座していた。





 惹き寄せられ、ハンガーデッキの真下から見上げていた。そのまま時を忘れ見惚れる。



 気が付くと、第一王子が傍に立っていた。

(そうだ、この場には第一王子しか居ないから[王子]って呼んでも問題ないはずだ。これからは、そう呼ぼう。)

 僕が気が付いた事に気が付くと、

「どうですか。最新機体は。」

 笑顔で語る。

「素晴らしい。こんなものは見た事が無い!」

 精一杯の褒め言葉を出したつもりだったが、後でボキャブラリーの少なさが恥ずかしくなる。

「そう、言っていただけると技術者も喜びます。」

 そこにいた技術者は寝食を忘れ働いていたのだろう、かなりの疲れが見て取れたが、その顔は誇らしげな笑顔だった。



「シオン殿に、この機体の名前を付けてもらいたい。」

「えっ!?」

 正直戸惑った。新型機体の名付け親になるなんて思ってもみなかったから…。

「是非。皆も喜びましょう。」

 そのまで言われるのなら…。

「ガン…。」

 危なかった。その出だしのロボットは数多い。

「いえ…。」

 少し考える。



 魔力で動くなら、それらしい名前を付けないとな…。



 *ちなみに、彼はロールプレイングゲームのキャラクターを作る時に名前に一番時間をかけるタイプである。



 それに、被ったりするとカッコ悪いしな…。

 神話から付けるか? いやいや、もういくつも付けられているから絶対に被りそうだ。



 ここは何個かの言葉を合わせた造語にするか?

 確か、濁点で始まる名前は受けるとか言うな…。



 悩むぞ…。



「あっ…。申し訳ない。」

 長い間、考え込んでしまっていたようだ。王子を放ったらかしにしていた。

「い、いえ…。」

 王子も、名付け親など頼まなければといった表情だ。

「少し時間をもらえますか…。」

「はぁ…。構いませんが…。」

「名は体を表すとの言葉もあります。もう少し詳しく見せてもらいたいのですが。」

「それでしたら、技術者に案内させましょう。」

 目配せすると技術者が一人やって来た。

「シオン殿に新型を見せてやってくれ。」

「分かりました。作業中ですが、外側からなら問題ないでしょう。」

 お辞儀し、

「シオン殿。こちらへ。」

 案内された。



 王子は助かったと…、打ち合わせに戻る。



 僕も助かったと…案内に付いて行く。



 新型の機体は…。と言うか、この魔動人は僕が夢見た理想のロボットだった。



 これに、乗ってみたい…。これで、戦ってみたい…。

 妄想は膨らむ。


  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る