第32話
海岸へ戻るとそこに海美の姿は無かった。
あれ…もう帰っちゃったのかな…
そりゃそうか…いきなり帰られたら気分悪いよな…
家はたしか、島の反対側って言ってたよな。…なんか恥ずかしいけど行ってみるか。
俺は階段を駆け上がり道路に出ると、当てもなく海沿いの道を走り出した。
今ならまだ追いつける。さっきの事謝らなきゃ…
しかしいくら走っても海美の姿は見えない。
ッッ…アイツどんだけ歩くの速いんだよ…
呼吸を整える為に少し歩いている時だった。前方に人影が見えた。
海美…!!
しかし近づくにつれてその人影が海美ではない事に気づく。
…なんだよ、島のお婆さんか。
そのお婆さんとすれ違いそうになった時『こんにちは。どこ行くだい?』と突然話しかけられた。
東京で生まれ育った俺は、知らない人に突然話しかけられるなんて想定していなかった。
少なくとも俺が住んでいた街ではそんな事は無かったのだ。
俺は警戒しつつも勇気を振り絞って答える。
「こんにちは…あの、島の反対側まで行きたいんですが…そうだ、女の子歩いてませんでしたか?」
お婆さんは首を傾げると後ろを振り向いてからゆっくりと俺を見る。
『はて…おったかねぇ。誰もおらんかったとおもうけんがねぇ。』
「そうですか…ありがとうございました。」
『気をつけていってきなね。』
これが島の人の温かさって奴だろうか。なんか苦手だな。
…そんな事より海美は?
俺は再びペタペタと走り出す。
既に足の親指の間が痛み出してきていた。
ビーチサンダルなんてやめときゃ良かったな…
その時砂浜から声が聞こえた。
『おーい!!誰だお前っ。』
声のした方へ視線を向けると、ズボン1枚で海水に浸かる同い年くらいの男が3人、こちらを見上げていた。
俺が何も言わずに立ちつくしていると『お前"東京モン"だろっ!!』と指をさして叫んできた。
どうやらこの島では完全に部外者扱いらしい。
こんな奴らと友達なんかなれっこないよな…
『おーい!!なんか喋れよーっ!!』
めんどくさい…
俺は"田舎モン"に言葉を返す事なく再び走り出した。
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