第7話

登りきった先のドアを開けて部屋へ入る。


そこには大きな窓があり、外には先程玄関の外から見上げていたベランダが見えた。


小走りに窓に近づき、鍵を開けベランダへと足を踏み入れる。


"フワッ"


潮風に押し上げられた前髪が戻る間もなく視界に映る景色に心を奪われた。


そこに広がった景色は俺を海の上の"浮遊城"にいる気分にさせた。


星雲のようにキラキラと輝く海面。その上に広がる透き通った青空には、大きなマシュマロみたいな入道雲がどっしりと腰を据えてこちらを真っ直ぐ見つめている。


その光景に心奪われていると『誠司ー!!荷物下ろすの手伝いなさい!!』1階から母さんの呼ぶ声が響いた。


あ、あそこから海に降りられるんだ…


初めて見る島特有の絶景に、俺はただただ見惚れるしかなかった。


…いっけね。母さん呼んでたんだっけ。


急いで下に降りていくと『もうお父さんが全部運んでくれたわよ!!』と、トートバッグを手に母さんが眉間にシワを寄せた。


そんな荷物少ないんなら呼ぶなよ。と思ったが「ごめん。ありがと。」なんて差し障りのない返事をしておいた。


待てよ、荷物運び終わったって事は…


「ちょっと海見てくる!!」

抑えきれなくなった好奇心に動き出した足がスピードを上げていく。


『ちょっと!!勝手な事しないでよ!!1人で海なんて危ないでしょっ…』


そんな母さんの声も俺の耳にはもう届いていない。


俺は目の前の道路に出ると、ベランダから見えたガードレール横の"海へと続く階段"を目指した。


ベランダから見たときはすぐ近くだと思っていたのに、いくら走っても"階段"は見えてこない。


異常な程の暑さとアドレナリン切れによって俺の体力は底をついた。


道間違えたかな…


不安が頭を過りだした頃、遂に遥か遠くガードレールの切れ目が姿を現した。


あった!!


その瞬間、底をついた体力が"サブタンク"に切り替わりアドレナリンが脳内へと満ちたぎった。


俺は潮風を追い抜くようなスピードで閑散とした道路を一気に走り抜け、岩山を転がる石の如く海へと続く階段を下っていった。


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