第4話
「"きっと"ってなに?!その言い方、行ったことあるんじゃないの??」
『ある訳ないじゃない。私だって東京からそんなに出たことないし。』
なんだよそれ…オトナはいいかもしんないけどさぁ。はぁ…マジ萎える。
『さっ、降りるわよ。まずはクルーズを堪能しなきゃ♪』
「オバさんは呑気だよなぁ…」
『こらっ!!沖洲島ならまだお姉さんで通るんだからね!!たぶん。』
もういいよ。
船内へ入ると、思ったよりも簡単な座席にチラホラと人が座っているだけで、母さんの言う"クルーズ"とはかけ離れたものだった。
『わぁー♪綺麗ー♪誠司も見なさいよほら♪』
母さんが小走りに窓に駆け寄る。
「俺はいいや。」
親が子供よりはしゃぐなよな。
俺は監獄へ移送される囚人や、出荷される豚の気持ちがわかった。…気がした。
船が港を離れて十数分後。
「ちょっ…トイレ…」
俺は船酔いというものを初めて経験した…
まさに地獄だ。今まで乗り物酔いというものをしたことがなかったから、船を完全に舐めていた。
父さんの言う通り酔い止め飲んどきゃよかった…
そんな事を考えても後の祭りだ。
"ボォーゥッ、ボォーゥッ"
汽笛の音が地獄の終了を告げた。
初めて耳にする汽笛の音に感動する間もなく降り口へ急ぐ。
終わる事のない不規則な揺れに胃の中をかき乱されながら約1時間…
よく死ななかったと思う。
フェリーを降りて寂れた待合室で横になり、古びた室内をぼーっと眺める。
白いペンキが所々剥がれた壁には、いつの時代のものかわからないようなポスターがいくつも貼られている。その中に1枚だけ貼られた新しいポスターがやけに目立つ。
"5年に渡る沖洲島花火大会計画本年度実現!!…今年から島の名物になる予定です!!"
予定って…大丈夫か…
生温い潮風に吹かれてしばらく横になると、ようやく体調が回復してきた。
「ごめんもう大丈夫。」
室内に貼られたポスターをまじまじと眺めながら母さんが呟く。
『そんなんじゃ漁師にはなれないわよ。』
誰が漁師になるなんて言ったんだよ!そう言い返そうと思ったが俺は力無く笑うしかできなかった。
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