遭遇、シャイニー海賊団、かつての仲間(後編)
拷問めいた女子だけの勉強会から解放されたのは、西の空が茜色に染まり始めた午後六時半頃だった。
「じゃあね、帯織さん」
「オリオリちゃん、ばいびー」
別れを告げる糸魚川さんと長岡さんに私は「うん。またね」と返す。
「今日はありがとうね、帯織さん。また明日」
「う、うん。じゃあね……」
心なしか肌の
帰宅ラッシュの時間帯のせいか車内は仕事帰りの社会人の群れで
社会人。成人。大人。
あと数年経てば自分もそちら側になるのだろうか。
成れるのだろうか。
数年先の未来どころか明日の自分がどうなるかすら想像出来ないのに。
将来の夢、か。
「…………」
大和から受け取った進路希望のアンケート用紙が脳裏をかすめる。
ほとんど空白の、第一志望だけが『就職』と書かれた大和の進路希望。
他人の進路希望なんて、見たらプライバシーの侵害だけど。
でも。
どうしても気になったから。
やっぱり、進学する気は無いのかな。
小さい頃の夢は諦めたのだろうか。
「…………」
やめよう。それは私があれこれと考えて良いことじゃない。
私には大和の進路に口出しする権利なんて無いんだから。
車窓に目を向け、流れて移り変わる景色を眺める。
目で風景を追うと、のどかな田園風景が薄っすらと茜色に染まっている。西日の陽光が疲れた目に凄く染みた。
夕方にはあんまり良い記憶がないんだよなぁ。
沈んでいく夕陽を眺めていると胸の内から湿った感情が溢れてくる。
寂しくて、切なくて、もどかしくて。
手を伸ばせば届くはずなのにとても遠い存在。
座席が一つだけの椅子取りゲーム。私はそのゲームに負けた。
何か一つ違えば座れたかもしれないのに。
電車の席なら何も考えずに譲れるんだけど。
今更
他人に善意を強要するのはただのワガママだ。
利己主義で自己中心的。私はそんな風になりたくない。
それでも時々ふと思う。
自分の人生なんだから一度くらいワガママを言っても許されるんじゃないかって。
「次は終点、直江津、直江津です──」
電車の車内アナウンスが耳に入り、睡魔で薄ぼんやりとしていた頭が一気に目覚める。
電車が終着駅に止まると車内にいる人の群れがゾロゾロと蟻の行列の様に外へ出て行く。私もその波に乗ってふらふらと駅の改札口に向かう。
「……………」
馬鹿馬鹿しい。
黄昏時だからって感傷に浸るとか。どれだけ精神が病んでいるんだよ私は。
思春期拗らせて何になるんだ。
今は目先のことだけに集中しよう。
先送りに出来る問題は後に回す。今までだってそうして来たじゃないか。
なら、先送りに出来ない問題はどうすれば良いのだろう。
例えば、思いがけない場所で思いがけない人物に出会ったら。その時は──。
「よぉ、久しぶり、伊織」
駅を出てから少し歩いた何の変哲も無い場所で背後からそんな言葉をかけられる。
「っ!?」
聞き覚えのある声。見覚えのある顔。出来れば二度と関わりたく無い相手。
西の空が血の様に赤く染まる逢魔時の駅前。そこで私は何処か自分に似ている『何処かの誰かさん』である『
「伊織にちょっと訊きたいことがあるんだけど、良いよな?」
顔に作り笑いの仮面を貼り付けて馴れ馴れしく話しかけてくる何処かの誰かさん。
「…………失礼ですけど、どちら様ですか?」
私はそんないかにも他人行儀な話し方で近付いてくる何処かの誰かさんを拒絶する。
「おいおい、いくら中学校以来でもその反応は酷いだろ。オレだよ、雪雄だ」
少し
目測で160㎝後半の中背中肉の体躯。私よりちょっとだけ高い背丈。
昔は私よりずっと背が高かったのに、中学校くらいから背が伸びなくなったせいか、見慣れた隣人と比べると、どうしても見劣りする感じが否めない。
まぁ、見劣りするのは背丈だけじゃないんだけどね。
容姿に関しては人の好みとかで賛否両論はあるだろうけど、中身に至っては比べるのも
「ああ……湯沢君。どうしたの? 私に何か用かな?」
目には目を。歯には歯を。作り笑いには作り笑いで返す。
「いや、用事ってほどでもないんだけどな」
「…………」
勿体ぶるなぁ。早く言えよ
その薄ら笑いを見ると胸の内からムカムカと嫌悪感がせり上がってくるのが、自分でもよく分かった。
ただの嫌悪ではなく不快感を
憤りではない不快な嫌悪感。
というか。
何でそんなに馴れ馴れしいんだろう。自分が過去に何を仕出かしたか忘れたのだろうか。
その態度が堪らなく不快だ。その顔も、その声も。なんなら存在自体さえも。
「要件は何かな? 私、早く帰りたいんだけど」
一秒でも早くこの場から去りたい。これ以上は感情を自制出来ない。今にも心に溜まった
「まぁ、ここで立ち話もなんだし、とりあえず場所を変えようか?」
「…………」
そうだよ。待つ必要なんて無い。さっさと切り上げればいいんだ。
このタイミングで私に話しかけてくる用事なんて一つしかないんだから。
「……言っておくけど、大和に関する情報は君には一切教えないから」
そう言うと愚者の──湯沢雪雄の。
「……ハハッ……そーかよ」
ボロボロと。
「……だから頭の良い女は嫌いなんだよ」
さっきまで薄気味悪かった作り笑いの仮面が崩れていく。
「さて、どうしたもんか」
ニヤリと。
化けの皮が剥がれた瞬間だった。
卑しい表情。雪雄の本来の顔。曝け出される醜悪な本性。
湯沢雪雄。
善人の皮を被って優等生を演じている偽善者。どこか自分と似ている存在。
同族嫌悪。だからこそ。
私は雪雄が嫌いだ。
「それにしてもつれない態度だな伊織。オレが何か気に障ることでもしたかよ?」
「……そうだね。強いて挙げるなら君の存在自体かな」
「ハハッ。まぁ、そんなに怒るなよ。せっかくの美人が台無しだぜ?」
「…………」
言動が一々
褒められた気が全然しない。というか普通に顔面をブン殴ってやりたい。
「つーかお前大丈夫か? 目の下に薄っすら隈が出来てるぞ?」
「べつに、君には関係ないだろ」
誰の目から見ても明らかに拒絶しているのが分かるはずなのに、雪雄は
諦めの悪い男は好きだけど……しつこい男は嫌いなんだよ。
「まぁ、青海の事は抜きにして、ちょっとだけで良いからさ、オレと話そうぜ?」
「…………」
ああ、そうだ。良いことを思い付いた。
コイツを使って憂さ晴らしをしよう。
「……分かった。良いよ」
やり場のないストレスを発散出来る。そう思った途端に睡魔で重くなっていたはずの身体がフッと軽くなった。
「ハハッ。そうか、それは良かった。じゃあ、ちょっと場所を変えようか」
付いて来いよ、と雪雄に催促されて向かった場所は駅から徒歩で数分ほど歩いた先にある海浜公園だった。
遠目に見えるタコの型をした赤色の滑り台。昔、そこは遊びや約束事の集合場所だった。
みんなの集まる場所。塾と学校以外で大和と逢える憩いの場。
全て昔の話であり今は違う。
最近は足を運びたくない場所になってしまった。苦い記憶が風景と重なるから。
出来るなら塾とここには足を運びたくなかった。
夕方なら
「単刀直入に言うわ。伊織、オレと取り引きをしないか?」
目的地に着くや否や開口一番にそんな胡散臭い提案をする雪雄。
「この話はお前にとっても悪い話じゃないと思うんだ。だから──」
「断るよ」
多大な勘違いをしている愚者に私は言う。今この場は私が憂さを晴らすためだけの断罪場なのだと。
「君さ、いい加減自分の立場を少しは
これはお説教なんかじゃない。
そう、今から始まるのは言葉の暴力による一方的な
卑劣な相手に反論の余地なんて一切与えてやるつもりはない。思い遣りも、言葉を選ぶ必要も無い。
だって、相手は大和では無いのだから。
「立場? 立場って何の話だ?」
私の問いに少し困惑する雪雄。とぼけたフリというより本気で「何を言われているか分からない」と言いたげな顔だった。
腹が立つ。どうしてそんなに罪の意識が無いんだ。
お前のせいで人一人の人生が狂ったというのに。
「そうか、分からないんだ……なら、頭の中に海綿体しか詰まってない知性がアメーバ以下の君でも理解出来る様に私が詳しく教えてあげるよ」
仕方ないな、と。
「やれやれ、暇な君と違って私は忙しいんだけど。時間は有限で貴重なのに、君との無駄話で浪費しないといけないんだから。ほんと時間の無駄ったらありゃしないよ」
言葉にありったけの憂さを乗せて私は愚者に罵詈雑言を言い放つ。
「はっきり言って私は君のことを──湯沢雪雄という人間を信用していないんだよ」
雪雄は顔をしかめて言う。
「信用していないって何でだよ? オレの何が信用出来ないんだ?」
「へぇ、分からないんだ……ああ、失礼。そういえば君は人間じゃなくてチンパンジーだったね。ごめん」
「……っ!!」
度重なる悪態に痺れを切らしたのか雪雄は声を震わせて喋る。
「伊織、お前っ……少しは言葉に気をつけて話せよ」
「一応これでも必要最低限の礼節は重んじているんだけどね。私は『犯罪者』相手ならこれで十分だと思うけど」
「あっ? お前、今なんて言った?」
「やれやれ、頭だけじゃなくて耳も悪いのか。仕方ないからもう一度だけ言ってあげるよ。私は君が犯罪者だって言っているんだよ」
雪雄は吠える。キャンキャンと負け犬みたいに。
「ふざけるなっ! 誰が犯罪者だよ!!」
鼓膜を震わせるほどの大声。普通なら怒号で
「君は立派な犯罪者だよ。無実の人に濡れ衣を着せるのは立派な犯罪だ。それが冤罪どころか罪の
生憎、私は異性から怒鳴られるのには慣れている。雪雄が吠えてもただ五月蝿いとしか感じない。
雪雄なんておじいちゃんやお父さんに比べれば全然怖くないし。
「……ハハッ。何を言うかと思えば……そんなことかよ」
下らない、と。
「お前まで有りもしないことを妄想するようになったのか。馬鹿馬鹿しい」
私は冷静さを取り戻し始めた雪雄に追い討ちをかける。
憂さ晴らしついでに会話による誘導からあの『いじめ問題』の情報を雪雄本人から直接引き出していることを悟られない為に。
「あれ? ちゃんと否定しないんだ? 否定しないなら肯定したとみなすけど? 良いの?」
まくし立てる様に言葉で責める。
「それに、さっき『お前“まで”』って言ったよね。それってつまりさ、他の誰かにも同じこと、あるいは似たようなことを言われたって事だよね? なら、君ってやっぱり人から信用されてないんだよ」
「…………」
「黙るんだ? 納得のいく説明で否定しないと私は君が肯定したと受け取るけど? 良いのそれで? このままだと君は犯罪者の汚名を背負う事になるんだけど」
「…………ハッ、馬鹿馬鹿しい。お前の与太話なんかに付き合ってられないわ」
自分の方から会話を持ちかけて来たのに一方的に切り上げようとする雪雄。
なんだよもう終わりか、歯応えがないなぁ。
所詮は負け犬、か。卑怯な手を使わないとまともに口論も出来ないのか、この男は。
やっぱり大和とは比べ物にならないね。
まぁ、でも。
知りたい情報を吐くまではまだ逃すわけにはいかない。
「へぇ、逃げるんだ? 逃げるなら私は今日話した君との会話を誇大脚色して『誰か』に話すつもりなんだけど」
遠ざかる雪雄の足を止めるために私は餌を投げる。
「……そうだな、例えば“ひめちゃん”とかに「雪雄があの時の犯人だった」って」
ピタリ、と。
尻尾を巻いて逃げようとしていた雪雄の足が止まる。
「お前っ、ふざけるのもいい加減にしろよ!!」
肩を怒らせズンズンと私に詰め寄る雪雄。
「ふざけてないよ。私は真面目に君がひめちゃんの私物を盗んだ犯人だと疑っているから」
雪雄は。
「何を根拠にオレが犯人だって言ってるんだよ。証拠はあるのか!? 無いだろ!?」
笑い転げたくなるほど、いかにも犯人らしい台詞を吐き捨てる。言動が完全にサスペンスドラマのそれだった。
「無いよ。証拠なんて今更出てくるわけが無いだろ。馬鹿なのかい君は。証拠らしい証拠なんて盗まれたひめちゃんの私物でも見つからない限り出てこないからね。……いや、その前に犯人自体すら本当は存在していないかもしれないんだ」
「…………は?」
「そもそもさ、ひめちゃんの私物って本当に盗まれたのかな?」
私が立てたある二つの仮説。
一つは犯人が存在しないケース。
もう一つは犯人が一人ではなく、計画的な複数人による犯行のケース。
私はその仮説を裏付ける情報が欲しい。二つの仮説のどちらかを立証するために。大和の無実を証明して不動のものにするためにも。
大和の抱える憂いを断つためにはどうしても犯人役が必要だから。今の大和には恨みをぶつける相手が必要なんだ。
だから、私は自分を殺してでも
「例えば、そうだね。あの一連のいじめ問題がひめちゃんによる『自作自演』だった、とか」
言って。
「…………っ」
雪雄は動揺する。不自然なほどに。取り乱してると言って差し支えがない程度に。その顔を苦悶の表情で歪めた。
「……いやいや、待てよ。お前、自分が何を言っているか分かってるのか?」
「分かってるよ。分かっているからこうやって君に問い質しているんだ。で、どうなのかな? 君の見解を教えてよ。ねぇ、雪雄」
私の質問に雪雄はこう答える。
「あり得ないだろ。何を根拠にしたらそんなデタラメな発想が出てくるんだよ。お前……頭大丈夫か?」
「私の頭は至って正常だよ。むしろ、どういう根拠で君が大和を犯人だと思っていたのかが、私は
情報を引き出すならこの辺が頃合いだと思った。今雪雄は間違いなく場の空気に呑まれている。
「君って本当に卑劣だよね。私が風邪で学校を休んでいる時にバスケ部の男女四人を使って大和を犯人に仕立て上げるんだから。本当、まんまとしてやられたよ。ひめちゃんを
本当、してやられたよ。私が学校を休んでさえいなければ『私にとっての最悪の事態』だけは回避出来たはずなのに。
まぁ、結局はたらればの話だけど。
「ハハッ……随分と面白い推理をするじゃないか。伊織、お前、ミステリー作家の才能があるんじゃないか?」
「たしかにミステリー小説を読むのは好きだけど、生憎と私の進路はもう決まっているから。書く方は遠慮させてもらうよ」
「そうかよ。まぁ、そんなデタラメな推理しか出来ない奴が作家になれる訳ないけどな」
「……デタラメじゃないよ」
「デタラメだろ。犯人は青海なんだからな」
「大和が犯人だって証拠が無いのに大和を犯人扱いする方がデタラメだよ」
「いやいや、証拠ならあるぜ。青海の不審な行動を見たっていう目撃証言がな」
雪雄のその言葉を受けて肌がチリチリとひりつく感じを覚える。またそれか、と。
「……君は本当にしつこい奴だね。その言い掛かりはこの前の時に大和本人から論破されたはずだろ」
「……は?」
そう言ってハッと気付く。迂闊にも言わなくていい情報を自分で喋ってしまったことに。
「何でお前が“その事”を知ったいるんだ? 青海にでも聞いたのか?」
「えっ、いや…………その」
「お前、まさか盗み聞きしてたのか?」
「…………」
まぁ、いいか。これは雪雄に喋っても問題ないはずだ。
「……そうだね。ついでに一つ、君に忠告してあげるよ。夜中に人と会話する時はもう少し周りに気をつけた方が良いよ。会話が丸聞こえだから」
「人の会話を盗み聞きとか。お前、意外と悪趣味な奴だな」
「…………」
返す言葉が無かった。墓穴を掘って肯定してしまった。
いや、その。
言い訳がましく聞こえるけど……純粋に気になっただけなんだ。
大和がひめちゃんと仲直り出来るかどうか。それが気になって仕方がなかったから。
あの夜、あの時は“ボク”だった私は、帰るフリをして大和の後をこっそりと着いて行った。
そのせいか、結果として大和と雪雄の口論に出くわした。
その会話の一部始終を聞いていたからこそ分かる事がある。
大和は自力で雪雄に勝った。他人の助力も無しに。卑劣な手段も使わずに堂々と真っ向勝負で。
自分だけの力で理不尽な境遇に抗い続けた。
本当、大和は凄いよ。
最初から私が悪役を演じる必要なんてなかったんだ。
そうだよ。あれは余計なお世話だった。仮想の敵を演じて大和に自分の正当性を主張させる練習なんて、完全に独りよがりな私のエゴだった。
今のままだと同じ過ちを繰り返す。その発想はいわば大和に対する侮辱の様なものだった。
もしかしたら、私は心の何処かで大和を過小評価していたのかもしれない。
あるいは。
私という足枷を付けて大和を籠の外から出さないために立ち回っていたのだろうか。
大和の自立を妨害していたのだろうか。無自覚のうちに。
それなら。
もう私は、ボクは、帯織伊織は必要無い。足枷にしかならない邪魔な奴は居ない方がマシだ。
そんな思想が生まれたからこそ。
私は自分を犠牲にする覚悟が出来た。
この身を犠牲にしてでも大和の障害になり得るものは全て排除する。自分自身も含めて。
それが私に課せられた最後の責任だから。
「まぁ、大和の無実は本人の口で証明されたわけだから君がこれ以上グダグダとのたまっても無駄なんだよ。それとも他に何か証拠でもあるのかな? 言ってみてよ。私が全て否定してあげるから」
この会話に置ける主導権は完全に私が握っている。後は雪雄を適当に会話で痛め付けて有益な情報を引き出すだけ──そう思っていた。
それすらも私の怠慢でありエゴだと気付かずに。
私は相手の力量を計り損ねていた。腐っても、愚かでも、湯沢雪雄は湯沢雪雄だった。
「ハハッ……ハハッ、アハハハハ、ハハハッ……」
気でも触れたのか唐突に壊れた玩具の様にケラケラと高笑いを始める雪雄。
「なるほど、なるほど。そうか、『違和感』の正体がやっと分かった。道理で、そうじゃなければ『そんな事』言わないよなぁ?」
ニヤリと。
雪雄は不気味なほど不敵な笑みを浮かべる。
「……何がそんなに可笑しいの?」
私の問い掛けに雪雄は。
「お前さ、もう少し自分の立場を弁えろよ」
驚くほど強気な発言を私に言い放った。
「立場? ……一体何のことかな?」
「とぼけんなよ。お前、青海が犯人じゃないって思ってるんだよな?」
「……そうだけど。今更それを確認して何になるの?」
嘲笑う様に。私の中身を見透かしたかの様に。雪雄は。
「要はお前、あの時に青海が犯人じゃないと分かってて『見捨てた』わけじゃねぇか。なんだよ、散々、人に偉そうな事を言っておいて自分だってサラッと卑劣なことしてんじゃねーか」
言われたくなかった一言を私に言い放った。
「…………っ!?」
グチャリ、と。
見えない手で内臓を握り潰された気分だった。
「……それは」
凄く息苦しい。肺の一部でも潰れたのだろうか。
「否定しないなら肯定したとみなすけど、良いよなぁ?」
「…………違うよ」
反論したいのに。
「違うなら納得のいく説明をしてみろよ。ほら、早くしろよ」
「……違うんだ」
思考がまとまらない。否定したくても上手く説明出来ない。
だってそれは紛れも無い事実なのだから。
「しかもお前、青海だけゃなくて姫のことも見捨ててたわけだろ? そりゃそうだよなぁ? 姫の自作自演なんて発想が出てくるんだからな。お前、最初から犯人を探す気なんて無かったんだろ?」
「…………違うよ」
「何が違うんだよ?」
「……ひめちゃんの事は大和以外の『みんな』だって見捨てたから……」
とっさに出た言葉がただの責任転嫁だった。
そんな言葉が出て来た時点で私の敗北はもう既に決まっていたのかもしれない。
「何を言い出すかと思えばそんな事かよ。悪いけど、オレは姫を見捨てなんかいないからな。犯人である青海をずっとマークしていたんだからな」
「……だから、大和は犯人じゃないよ」
弱々しい芯のない反論。そんな言葉が通用するわけもなく。
満身創痍の私は追い詰めたはずの雪雄にとどめを刺される。
「ああ、そうだよなぁ。お前は姫の自作自演だと思ってるんだよなぁ?」
「そうだよ。その可能性があるから私は……」
「その発想ってさ、つまりこういう事がなければ生まれて来ないよなぁ?」
雪雄は嘲笑う。ケラケラと笑いながら「傑作だ、今まで気付かなかったわ」と誰にも知られたくなかった私の、ボクの気持ちを指摘する。
「お前さ、青海の事が好きなんだろ?」
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