第二話 一人百物語 1
私、鹿島麗子。
三度の飯より怪談が好きなのだけど、別におかしな事じゃないわよね。前にクラスの男子から、オカルトマニアの変人だってバカにされた時はショックだったなあ。
その男子は後にちょ――っとお仕置きして、言ったことを後悔させてあげたけど。でも土下座して謝ってくるそいつを見ても、まだ悲しい気持ちは晴れなかった。
あーあ。どこかに気が合う怪談マニアでもいないかなあ?
あ、そういえば前に聞いた話で、私と同じように怪談が好きな男の子の話があったっけ。
それは今から二十年以上も前に起きた、当時小学生だった、怪談が大好きな男の子の身に起きた物語……
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
1995年、夏。今世間では空前の怪談ブームが起きていた。
いや、ひょっとしたら俺の生まれる前にも、同じように怪談ブームが起きた事があるのかもしれないけど。口裂け女や人面犬が騒ぎになったって話は聞いた事あるし。
けど、産まれてからまだ11年しか経っていない俺にとっては、間違いなく空前の怪談ブーム。
映画館に行けば『学校の怪談』や『トイレの花子さん』といったオカルト映画が上映されていて、小学校の図書室では、普段は本を借りないような奴でも、怪談系の本を借りている。
俺も普段は字ばっかり書かれた本なんて読まないけど、今だけは文学少年になっている。もちろんオカルト限定の。
何が面白いのかと言われても、上手く答えられない。だけどみんな怖い怖いと言いながらも面白がって怪談を語ったり、その手のテレビ番組を見たり本を読んだりしては騒いでいる。
だから俺も、流行に乗っかって怪談ブームをエンジョイしていると言うわけだ。
映画で主人公たちがオバケに追いかけられているシーンは見ていて楽しいし、本を読んでいて予想を裏切る展開になるとビックリして面白い。
さて、そんな俺だけど、夏休みに入ってすぐに11歳の誕生日を迎えた。
お母さんが誕生日プレゼントは何がいいって聞いてきたけど、俺の答えはこうだった。
「今は何もいらない。けど、一週間経ったらゲームが欲しい」
お母さんはキョトンとしていたなあ。すぐに貰うのではなく、たった一週間とはいえプレゼントを先送りにするのが信じられなかったのかな。でも仕方ないじゃないか、欲しいゲームの発売日が一週間後なのだから。
俺が欲しいゲーム。それはスーパーファミコン用のソフト、『学校であった怖い話』だ。
『学校であった怖い話』、俺は略して『学怖』と呼んでる。
どんなゲームかというと、ある高校に通う男子生徒が様々な語り部から、タイトルどおり学校であった色んな怖い話を聞いていくという内容。
画面に表示された文字をただ読んでいく。ノベルスゲームって言うんだって、友達が教えてくれた。
俺は別に小説が好きという訳じゃない。本でなくテレビ画面だけど、こんな字ばっかり読んでいくようなゲームは、今までにやったことがなかった。
そもそも俺はゲームをするならスーパーマリオやロックマンといったアクションゲームや、ストリートファイターⅡのような格闘ゲームがほとんど。機敏な操作性が求められる、動きのあるゲームが好きだった。
動きが少ないという理由から、RPGさえあまりやったことが無い。みんなが面白いと言っているドラクエでさえ、やろうとは思わないのだ。
それなのになぜよりによって、ノベルスゲームである『学怖』を欲しがったのか。答えは簡単、今の俺はとことんホラーにのめり込んでいたから。
いったいどんな怖い話が聞けるのかと、発売日を心待にしていた。
そうして誕生日から一週間後、お母さんは約束通りゲームを買ってくれた。もちろんすぐにゲームを開始したよ。テレビの前に座って、ワクワクしながら画面を見ていた。
で、結論から言うとこの『学怖』……めっちゃ怖かった。
実は俺、怪談が好きと言っても、あんまり怖いと思ったことはそれまで無かったんだ。
主人公がピンチになったらハラハラするし、幽霊に追いかけられたりした時は早く逃げろって思ったりはしてたけど、それって、怖さだったのかな?
危機を前にした主人公を応援する気持ちは、『ドラゴンボール』や『幽遊白書』を見ている時に思ったドキドキ感に近いかな。相手が幽霊や妖怪だろうと、要は敵キャラ。どうやってこいつから逃れられるか、もしくはやられるか、なんてことを考えながら、話と向き合っていた。
しかし、この『学怖』はそうじゃなかった。
文章力が凄まじく、ゲーム内でキャラクターが恐怖を感じた時は俺まで怖くなった。今までは『これからどうなるんだろうな?』とワクワクしていたピンチの場面では、『頼むから助かってくれ!』と本気で思ったよ。
だけどいくら怖くても、不思議とゲームをやめる気にはれなかったなあ。
息をするのも忘れて、画面に目が釘つけになる。窓や戸を開けてゲームをしていると、そこから得体の知れない何かが部屋の中に入って来るような気がしたから、『学怖』をやる時はいつも部屋は閉め切っていた。
俺の部屋にクーラーは無い。だからそんな閉め切っていたら暑いとはずだけど、不思議と暑さは感じなかった。
いや、不思議でも何でもないか。単に怖さで暑さを忘れていただけだ。
様子を見に来たお母さんが、なんの前触れもなくいきなり部屋の戸を開いた時は悲鳴をあげたっけ。ビックリするから、開ける前にノックをしてほしかった。もっともノックなら声を上げなかったのかと聞かれても答えに困るけど。
さて、そんなわけで『学怖』を買ってもらってからというもの、俺は一日中ゲームにのめり込む込むことも少なくなくなった。
『学怖』で語られる怪談は、短編小説並の長さのものが数十種類。読むのがあまり早く無い俺では、全ての話を聞き終わるまでだいぶ時間がかかってしまう。
だけど、今日はいつものようにゲームをするわけではなく、一人で家の外をぶらついていた。
本当は家に帰ってゲームがしたかったけど、それはできない。何故なら。
『毎日毎日ゲームばっかりして!たまには外で遊びなさい!』
そんな事を言われてしまったからだ。
別にゲームばっかりやっている訳じゃないのに。友達とプールに行ったりもしてたし、夏休みの宿題だって少しずつだけど進めていた。
だけどお母さんの目には、ゲームしかしていないように見えたらしい。文句を言ってやりたかったけど、ここで逆らってスーパーファミコンを捨てられでもしたらかなわない。渋々外に遊びに行くことにしたのだった。
しかし、しかしだ!どうしてよりによって今日でなければいけなかったのだろうか⁉
俺は別に外で遊ぶことが嫌いなわけではない。友達を誘って虫取に行くのも悪くないと思う。だけど、今日はそれができなかったのだ。
何故なら今日はお盆の真っ只中。仲の良い友達は皆、やれお父さんの田舎に行くだの、海外旅行に行くだの。揃いも揃って出掛けていたのだ。
「くそっ、一人でどうやって遊べばいいんだよ」
せめて別の日だったら良かったのに。とはいえ文句を言ったところでどうにもならない。
早々に家に帰るわけにもいかす、当てもなくブラブラと町をさ迷うしかなかった。そうしているうちに行き着いたのは、町外れにある小さな神社。何があるわけでもないけど、ここは涼しいし。社に腰かけて昼寝でもしようと思っていたんだけど。
「あれ?」
驚くことにそこには先客がいた。社の前にちょこんと座っているその人は、高校生くらいの女の人。
スラッとした背丈で、色白の美人さん。背中の真ん中くらいまで髪を伸ばしていて、涼しげなセーラー服を着ている。
こんなところで何をしているのだろう?そう思いながらもその綺麗な姿に目を奪われていると、向こうもふとこっちを見てきて、目が合った。
「ふふふっ……」
俺を見るなり、なぜか微笑むお姉さん。だけどそのわけを考えている余裕はない。その妖艶な目で見つめられたとたん、俺は動くことができなくなってしまった。
なんて……なんて綺麗な人なのだろう。この世にこれほどの美人が存在していたことに驚いた。
俺は息をするのも忘れて、その人に見とれていたんだ。
※麗子さんのコメント
怪談好きな男の子、良い趣味してるじゃない。『学校であった怖い話』、私もやってみようかな。
それにしても、気になるのは神社にいたお姉さんね。ふふふ、素敵な出会いがあったようで良かったわね。
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