第4話
目の前に居る私は、横になったまま顔をこちらに向け語りかけてくる。
ふと、その視線が私の後ろにいくと優しい笑みを浮かべてひょこひょこと手を振る。
「あの子はね、私の孫なんだよ。車椅子押すの、上手だったろう? 私も、押してもらうの、好きだったんだよ。」
悪戯っぽい笑みを浮かべる老人を見て、本当に私なんだろうかと疑念が強くなる。
私はこんな風に笑う事が出来ない。
そんな気持ちを見透かすように目の前の私はか細いながらも、しっかりとした声で話していく。
「大丈夫。大丈夫だから。」
「……え?」
「これから貴方はたくさん傷ついて、たくさん後悔して、たくさん悲しむ。」
私の言葉に、私は絶望する。
これ以上の苦難が待っているのかと。
悲しむ私の手に、私の手が重なる。
しわくちゃだけれども、力強く手を握られる。
「でも、大丈夫。私は、私が頑張った事を知っている。そして辛い事も、苦しい事も、かけがいのないものになるから。」
知っている。そう言われた時、今までの全てが認められたようで、堰を切ったように涙が溢れ出る。
「どんな困難だって乗り越えられるさ。大丈夫、私は今、幸せだよ。」
その言葉を聴いた瞬間。意識が暗転した。
目が覚めると、私はいつものように自分の部屋の天井を見上げた。
いつものように身支度を整え、家を出る。
いつものように挨拶をし、仕事に取り掛かる。
いつものように仕事を終えると、最近出来た友人と会う。
いつものように星空を見上げ、家路につく。
私はいつも通りの日常を過ごしていた。
あの出来事が夢だったのか、現実だったのかはわからない。
それでも、この空に星が輝くのなら。
風が優しく髪を撫でていくのなら。
大丈夫。私は、この世界を生きていく。
私の物語。 @yasu13
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