第3話

「え……?」

思わず声が漏れ出す。

それから医師が色々と説明してくれたが、まったく頭に入ってこない。

「……これを、ご覧ください。」

そう言って医師が差し出してきた一つのファイル。

そのファイルの中には私が生まれてから今の私になるまでの話しが物語のように書かれていた。

それらのページには思い出の写真達が挿絵のようにが並んでいる。

自殺未遂者が運ばれてきたとしても、こんな面倒な事はしないだろう。

そのファイルを読みながら、優しい思い出に浸り、また悲痛な今を思い出し苦しくなる。

最後まで読み終え、パタンとファイルを閉じる。

「あの、私はどうなるんでしょうか……。このままここで過ごすんですか?」

まだ完全に信じきれた訳ではないが、あの苦しい生活から離れて、新しい生活が出来るかもしれない。

そんな思いから医師に尋ねる。

「いえ、そういう訳にはいかないんです。実は貴方がこの時代に居られるのも後僅かでして……、そして帰ってしまうその前に、貴方に会いたいという人が居るんです。」

「私に……?」

当然ながら、未来人に知り合い等居ない。

不思議に思いながら考えを巡らせているとガチャリと扉が開く音がする。

目を向けると先程の看護師さんが居た。

「あの、私がご案内しますね。」

そう告げると医師は頷き、再度私の乗っている車椅子は押されていく。

少し進んでいくと外の風を感じる。

病棟と病棟を繋ぐ渡り廊下のような通路に出る。

未来の世界も、風は変わらず優しく髪を撫でる。

廊下を渡り、屋内に入ると先程の病棟よりも静けさを感じる。

静寂に包まれ、ピンと緊張した空気。

その静寂を看護師さんの声がかき消す。

「ここ、です。」

到着した病室、引き戸をゆっくりと開ける。

病室の中にはいくつものチューブに繋がった老人がベッドに横たわっている。

その横顔を見た時、私の中になんともいえない感情が渦巻いた。

その感情を確かめる為に、気怠い身体に鞭を打ち、ベッドの手すりに手をかけ立ち上がる。

よろよろと歩きながら、老人の顔を覗き込む。

「もしかして……、私……?」

直感的に理解していた。でも理性がそれを否定していた。

私の声に反応したかのように、老人の目が開かれる。

「やぁ……、来たね。待っていたよ。」

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