2018/07/24 『命を削ったきらきら』
今日はとある民族の話をしましょう。
その民族は美しい織物を生産することで有名です。
その民族の女性は代々、滑らかな白い布地に染めた糸で細かな刺繍をしてその織物を作ります。
彼女達の生産する織物はとても希少価値が高く、入手が困難です。
何故なら彼女達は、一生に1枚の織物しか生産しないからです。
彼女達は布地に糸を通す際、自らの指を通過させます。
体内で糸を十分に温め、糸に体液を染み込ませたら、そのまま布地に刺繍をしていきます。
つまり刺繍糸を染めるのは、彼女達の体液なのです。
この作業は彼女達の身体に負担をかけます。
そのため彼女達は刺繍が大きくなるたびゆっくりと痩せ、衰弱していきます。
ですが彼女達が死に近づくたび、施される刺繍の模様は美しく、細かくなっていくといいます。
彼女達の平均寿命は20歳です。
この事実を知ったある人権団体は、織物の生産が彼女達の生命を侵害していると告発しました。
団体の激しい訴えによって、マニアの間だけで取引されていたその織物は大衆の目に晒されることとなりました。
織物を見た人々は言葉を失いました。
それがあまりに美しかったからです。
団体の告発はいつの間にか聞こえないもの、存在しないものとされました。
美しさのために彼女達の命が使われることを、ほとんどの人が認め、一部の人は推奨したのです。
彼女達が命を削り生み出したその織物は、今でもその美しさを保ったまま、ゆっくりと生産され続けています。
その民族の女性は何故か、絶えることはありません。
了
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