夏休みの洗脳事件

鮭さん

夏休みの洗脳事件

 2020年の夏休み初日。海の底のような部屋で兄妹二人が宙ぶらりんな時間を過ごしている。窓の外には雲一つない空と海、透き通った冷やし中華を思い起こさせる。


 制服や学校から持ち帰ってきた教科書やらが散らばっている。弟、礼央、姉、紅麗亜、互いに見向きもせず礼央は本を読み、紅麗亜はノートにペンを走らせている。学校の宿題だろうか。互いに集中しているよう。紅麗亜はオレンジ色のヘッドホンをつけ外界との関係を絶っているように見える。誰も話しかけるな、というような感じだ。


 トントン、ノックの音。どうやら母が来たようだ。


「礼央、紅麗亜、ちょっと洗濯物干すの手伝って欲しいんだけど。」


「はあい、ちょっと待って。」


 礼央が返事をする。


「待てないわよ。今すぐ来なさい。」


 母は暴君だ。ドアを開け入ってくる。


「わかったよ。いくよ。」


 礼央が立ち上がる。


「ほら、紅麗亜も来なさい。」


 母が紅麗亜にズケズケと歩み寄るが彼女はなんの反応も見せない。気づいてすらいないようだ。


「待って、母さん。紅麗亜は今宿題をやってるんだから。」


 礼央がなにやら慌てた様子で母を止めに入る。


「うるさいわねえっ、そんなの知ったこっちゃないわよ!!」


 母は礼央を振り払い、紅麗亜のヘッドホンを外した。すると、


 ジジジジジジジジジ


 紅麗亜からなにやら電子的な音が聞こえた。頭は小刻みに震えており、白目を剥いている。意識がないようだ。


「なに、なにがあったの!!」


「大変だ。病院に行かなくちゃ!!」


 礼央は何か知っているらしかった。とりあえず紅麗亜の安全が第一。礼央は救急車を呼んだ。素早い対応のおかげで紅麗亜は一命をとりとめた。どうやら紅麗亜はヘッドホンを通じ脳に電磁波を送られていたが、そのヘッドホンが外され電磁波が突然途切れたことにより意識を失っていたようだった。


 さて、なぜこんなことになったのか。警察の調査に対し礼央はこう答えた。


 宿題をやるのがめんどくさかったんだ。あんなの俺にとっては簡単すぎる。だから俺は洗脳マシンを開発し、姉さんにそれをつけて宿題をやらせていたんだ。ゆっくり電磁波を弱めながら外せば問題なかったのに、母さんが急に外すからあんなことになってしまった。まあでも良くないことをしたと思う。反省している。


 礼央は洗脳罪により夏休み中刑務所に入ることになった。しかしこれでは宿題ができない。姉、紅麗亜は異常に優しかったので弟の分の宿題を洗脳されなくともやってあげたのだった。


 完

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夏休みの洗脳事件 鮭さん @sakesan

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