「この地獄の片隅に」J.J.アダムズ編
パワードスーツをテーマに据えたアンソロジーだ。
人間の思考や感覚を忠実に反映して動作する着用するロボット、若しくは駆動鎧といった代物――それがパワードスーツと呼ばれるものだ。これをコンセプトにした作品を集めて編纂されたものになる。
このガジェットが世に広く知られるきっかけとなったのは、やはりハインラインの「宇宙の戦士」なのだろう(自分が知らないだけで、他に先駆者がいたのかもしれない)。着用者のパワーを何倍にも拡張して戦う動力を得た鎧というコンセプトは一部のヲタクの心を捉えて離さなかった、自分もその一人。だいたい「ガンダム」(モビルスーツは「宇宙の戦士」の
以来、このガジェットを扱った作品は色々と読んできた。「宇宙兵ブルース」とか「終わりなき戦い」とか、ひとえにパワードスーツといっても色んな扱いがあると知らされたものだ。
このアンソロジーも千差万別、様々に彩られていた。パワードスーツがテーマと言ってもミリタリーとは限らない。サイバーパンクや、ラブストーリーもある。スチームパンク風味のイフSFがあるかと思えば、遠未来を舞台としたスぺオペ的なもの、時間SF、ある種のファーストコンタクトテーマ、加えて猫SFもあってバリエーション豊富だ。自分もパワードスーツものを書いているので勉強になった。
幾つかの作品に共通していたことだが、スーツのAIが自我(若しくは“らしきもの”)を獲得して自律的に活動するという展開が見られた。パターンは色々で、着用者に取って代わって人間のフリをするという些かホラーめいた展開(表題作の「この地獄の片隅に」)とか、AIと着用者が一心同体となるもの(「ノマド」、バディもののクライムアクション。サイバーパンク色が強い)とか、傷病兵を治療しているうちにその兵士の意識に取りつかれて(或いは逆に取りついたと言うべきか)、部隊の意向を外れて独自活動する(「外傷ポッド」)とか(これもホラーちっくだった)あった。
スチームパンク風味作品は過去を舞台としていて、蒸気力を活用した動力甲冑の話(「ケリー盗賊団の最期」や「ドン・キホーテ」)だった。過去の技術の上で成立させているせいか、無骨な雰囲気が伝わり、鉄の匂いがむせ返る感じがした。
「深海作業艇コッペリア号」は一種のスぺオペだろう。海洋を舞台としたサルベージ業者の話だったせいか、何故か「翠星のガルガンティア」を思い出した。ガルガンティアもスぺオペから海洋冒険ものの展開だったせいだろうが、具体的な物語の展開は全然違う。
他にもまだあるが、話し出すとキリがなくなるのでここまで。
様々なイメージが脳内を駆け巡り、読書中はまさに夢の中で遊覧していたような気分になれて幸せだった。やっぱ当方はパワードスーツが好きなんだな、と改めて思い知らされた。加藤直之氏のイラストも秀逸だ。やっぱパワードスーツと言えば氏だな。
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