第3話 探てい図かん

 洋平はここのところ、日本や外国の名探ていを覚えるのにこっています。お姉さんのあかねさんが、探てい図かんという本を買ってくれたからです。



 あかねさんは中学生なので、おこづかいをもって、自転車で友達と遠くに出かけたり、一人で出かけたりすることがあります。

 時々、洋平はあかねさんについて出かけることがありました。いつも行くショッピングモールには、きらきら光るキャラクターのカードやミニチュアのおもちゃが出てくるガチャガチャがあるので、それが目当てです。お菓子を買ってもらえることもあります。弟の晴希が一緒のときもありますが、晴希はだいたい家で勉強をしたり、ピアノをひいたりしています。


 お母さんと一緒の買い物だと、

「そんなくだらないものにお金を使ってはダメよ。」

 とか、

「似たようなのをいくつも持っているじゃない。」

 などと言われるのですが、あかねさんは洋平が何を買っていてもにこにこしながら見ていてくれます。

 それに、洋平は限られたおこづかいの中で変えるものを一つだけえらぶ時に、とても長い時間をかけてえらぶのですが、忙しいお母さんや短気なお父さんは、そんなに長いこと洋平を待ってくれません。でもあかねさんは洋平がどれだけ時間をかけても、待っていてくれるのでした。

 

 あかねさんはこの日、本屋さんで、ノートや参考書を買っていました。

「洋平、何かほしいものある?」

「うーん……。」

 こういわれて洋平は、少し考えました。実は洋平は、本はそんなに好きでもないのです。

 洋平は、長い物語を読むのはあまり得意ではありません。絵がたくさんのっている本やパズルブックがお気に入りでした。そこで、辺りを見回して、かっこいい表紙だ! と思って手に取ったのが、探てい図かんという本でした。

 絵がたくさん入っていて、少し高かったのですが、あかねさんはそれを買ってくれました。



 家に帰ると洋平は早速、探てい図かんを読み始めました。厚い本だったので読めるか不安でしたが、開いてみると、日本や外国のいろいろなな名探ていがのっていてとても面白いのです。ホームズにコロンボ、ポアロにクイーン、明智小五郎。それぞれの探ていのイラストがついていますが、年れいも性格もいろいろです。洋平はとくに、金田一耕助が好きになりました。いつもかっこよく決めているわけではなく、普段はさえないよれよれのかっこうだけれど、実は名探偵、という点が、親しみやすいと思ったのです。

 洋平は推理小説も読んでみようかと、学校の図書室に行ってみましたが、長いしむずかしいしであきらめてしまいました。でも、すっかり探ていに夢中になった洋平は、探偵のプロフィールを覚え、友達や家族にクイズを出してみました。友達はあまり興味がなさそうでしたが、洋平はしばらくしつこく友達に探ていの話をしていました。



 そんな洋平をお母さんは苦々しく見つめていました。洋平がますます勉強をしなくなってしまったからです。毎月一回送られてくる通信教育の「アニマルゼミ」も、もう半年分たまっていました。

「こんなものを覚えても何の役にも立たないんだから、それより国語や算数をしなさい!」

 お母さんはきびしく言いました。お母さんは、洋平をしかってもふざけることがあるので、しかられていることをまじめに受け取れない子供なのだと思っていました。でも、洋平がふざけるのは、しかられているときのピリピリした空気がとてもつらいからです。怒っているお母さんがこわいので、何とかしてふつうに戻ってほしいと思っているからなのです。学校でも、先生にしかられたり、友達とけんかしたりすると、洋平はふざけてみせて、みんなを笑わせようとすることがありました。うまくいくときもありましたが、余計に相手を怒らせてしまうこともありました。

 お父さんは自分も小さなころ、ゲームに夢中だったといい、子供のうちは好きなことをしていればいいと言ってくれました。

 あかねさんは、洋平は将来探ていになるのかもしれないね、などと言いました。洋平は、もしも自分が探ていになったら、姉ちゃんを助手にするんだ、と決めました。

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