第2話

まるで関係ないようだけど・・・

うちの姉は、誰がなんと言おうと自分で道を切り開くタイプであり、

押しが強い。そのたくましさで、今や結婚し、一児の母だ。


その点、僕は反面教師はんめんきょうしとして育てられたのか、押しが弱く、

まるで、すべて母に支配されたようなものだった。


それは、僕が就活の研修中、知り合った就活仲間の女性とメル友になりたい、と

思ったとき。

なぜかそこは母親に携帯電話で相談をした。それは、

「その女の人は、就活中で忙しいんだし、下手に声をかけたら

イヤな気持ちになるでしょ?やめんせえ(やめなさい)。」


と言われ、僕はその女の人とメアドを交換するのをやめた。

絶好のチャンスを生かさなかったことが、正しい判断だったかいなか、

今でもわからない。


その逆で、家族と食事をするとき、(家でも外でも問わず)

オカズが残ってしまった時、誰も遠慮して食べようとしない。それは

僕も同じだった。それに拘わらず、母がみんなに呼びかける。


「あんた、食べないの?」それに僕は、

「おれはいいよ、腹八分はちぶんめだし、やめといたほうがいいかなって。」

「八分目だったらいいじゃないの、食べんせえ(食べなさい)。」


と言って、トコトンすすめてくることもあった。

そんな生活にとしてきてきた僕は、20代後半のとき、ひとり立ちを

ひそかに決心したのだ。


家族に隠し事をできないタイプの僕が、初めて隠し事をした瞬間だったと思う。


例え話として、母に相談したこともあった。


「もしもだよ?もし、おれが家を離れて一人暮らししたいって言ったら、

どうする?」


って言うと、母は


「別にいいんじゃない?お金はいっこうに貯まらんけど、一人で暮らして

さみしくないんだったら」


と、意外な意見が返ってきた。

その言葉に背中を押されて、僕はひそかに賃貸マンションをさがしに不動産屋

をたずねた。


2回目におとずれたときは、実際にその場所へ行ってたしかめるところまで

漕ぎ着けた。

そのあと、まだ契約までいっていなかったが、それにはやっぱり、親の許しを得るしかなかったのだ。

3回目、不動産屋へ行く前に、事前に電話で担当者に電話した。

「あの、今夜両親と話をするので、こないだ訪れたマンション、とっておいて

もらえませんか?」と僕が言うと、


「あーすみません、そのマンションは、別の契約者の方も視野に入れているので、早く買い取っていただかないと、他の方にとられる可能性もあるので・・・」

と、担当者は言う。


「僕が先に選んだものでもですか?」と僕が言うと、

「すみません、お取り置きだけはできないので、それだけはわかって

いただきたいので・・・」


”お取り置きはできないので”の一点張りの担当者。そのため、

僕はそろそろ腹をくくらなきゃいけないと思った。


「わかりました、今日中に両親に話して、今週の土曜日、朝10時にうかがっても

いいですか?」

僕は、担当者に低めの声でつげた。



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