うしろゆび、さされびと。

黒田真晃

第1話 

日曜日の正午、かためのニュースがとびこんできた。

それを淡々とした声でニュースキャスターは原稿を読み上げた。


「今日の午前9時、東京都練馬区で、卵アレルギーを持つ5歳の息子に、卵を

食べさせて、死亡させた34歳の母親が,逮捕されました。母親は、容疑を

否認ひにんしています。」


僕は、社会人だが、日曜日ということもあって当然休みだ。

そのテレビのニュースを、カップラーメンを食べながら、たまたま観ていた。

その近くで、僕の母親、大島おおしま暢子のぶこもそのニュースを観ていた。

母親は、その惨劇を聞こえよがしにつぶやいた。


「本っ当、ひどいわぁ~。なんでそんなことをするか、わからんわ~」


この時に限らず、僕の母は、テレビのニュースや新聞の記事を、ところかまわず

声に出して苦言くげんを呈することがある。

そのニュースに同情するのもいいけど、だったらあんた、世の中にそれを

主張してやれよ。


母は、28歳で結婚してから、専業主婦をつらぬき通している。

僕は30歳の未婚みこんだ。母親は、お見合いで結婚したとはいえ、まことにうらやましい。


母と社会とは、まったくの無縁だった。そのくせ、僕が大学生になると、

「あんた大学生になってから,アルバイトさがしてないんだけど、

どうするんですか?!」


と、語尾は方言がかった発音で僕をたしなめていた。


だったら、母も「人の振り見て我が振り直せ」だ。

何か仕事にでもついてくれたら、しめしもつくはずだろう・・・

と言っても、母に何か小言を言うのは、猫の首に鈴を付けるようなものだ。


それは、最近母が車の点検をしに、僕ら行きつけの車販売店へ行ったとき、


「これはウチで買った車ではない」と、店員さんに言われた。

最初はそう言われたものの、結局車は点検してもらった。


母親は、県外の販売店で車を購入していたのだ。

そのことを母親が帰ってきてから家族に悔しそうに話をして、

「もう、あそこには2度と行かんわ!」と、怒りをあらわにしていた。


そのとき僕は,洗濯物をたたみながら、ダメ押しをするようなことを言ったのだ。


「そりゃ・・・自分のために怒ってるだけじゃないか」


それを聞いた母親は、

何も言わずに僕に殴りかかってきた。平手ひらてだったが、それで何度も僕の頭を

ひっぱたいてきた。


「暢子!やめろ!」


父親が制する声も気にせずに、母は僕を殴り続けた。

次の日、母の手はグローブみたいにはれ上がっていた。


そんな母親に仕事をすすめるなんて・・・

何かきっかけでもないと。


母にふさわしい仕事といえば・・・

僕は、ふと思った。

そして、ググって開いた市議会議員のホームページをアクセスしてみる。

今度の選挙はいつなのか。


うちの母親なら、こういう仕事をしても後ろ指をさされてもへっちゃらで

いられるだろう。

そして、自分の思ったとおりの世の中を築きあげるだろう。


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