第11話 次の標的は

「そのいけ好かない顔が全く信用ならん」

 台東はそう言って文了を睨みつけた。

「生まれてきた頃からこんな顔だからそれは仕方ないと思うんだけどなぁー。あまり、そんなしかめっ面していると、眉間のシワ寄ったままになるよー」

「誰のせいだと思っているんだ」

「まぁまぁ」

 台東が食ってかかろうとするのを、文了はなんとか宥めようとしていると、

「お待たせしました」

 エントランスから十子が出てきた。文了と台東は結構な時間言い争いになっていたらしい。

「あれ? 文了さんまだいらっしゃったのですね」

「台東のおっさんとちょっと込み入った話をしていたら長話になっちゃって。おっさんは昔から長話が好きでねぇー。井戸端会議の主婦かって話ですよね」

「おい、私は」

「ふふっ。文了さんと台東さんって仲がいいんですね?」

 十子はそう言って笑いが漏れる。

『仲がいいって何処を見たらそうなるんですか!』

 その言葉に二人が揃って声がハモる。

「そういうところです」

 十子が答えると、二人は目を見合わせて互いに嫌そうな表情になった。

「さ、こんな男なんて放っておいて参りましょう」

 フンと文了に向かって台東が鼻を鳴らすと、車の後部座席の扉を開けて十子を誘導する。

「ありがとうございます。では、文了さんまた何かあれば連絡します」

 十子は軽く文了に会釈をして車に乗り込もうと歩き出す。

「はーい、いつでも……って、危ない!」

 ニコニコと手を振りながら十子に手を振っていた文了だが、次の瞬間、十子に向けて走り出して、体当たりをする。

「えっ……」

 文了の体当たりによる、飛ばされて尻餅をつく十子。

 その視線の先には、


 頭から出血して路上に倒れている文了の姿があった。


 文了の頭の傍には割られている植木鉢があった。どうやら、空から降ってきたものらしい。文了はその植木鉢に頭部が命中し、ピクリとも動かない。

「文了さん!」

 十子は飛び出して、文了に近寄ろうとするが、

「下手に動かしてはダメだ!」

 台東が必死に十子を制止する。

「でも、文了さんが!!」

 涙目で文了のところへ向かいたくて必死にもがく十子。

「救急車を手配したから、大丈夫だ」

「でも、でも!」

「……いってぇ……」

 その時、唸るような声をあげて文了が起き上がった。

 顔面はまだ血がダラダラと流れて止まっていなかった。

「奥さんに向けて落下してくる植木鉢が見えたから、避けようと思ったらまさか自分に当たるとは思わなかった」

 顔面に伝う自分の血を手で拭って、ソレを凝視する文了。

「文了も下手に動くな。後遺症が残るかもしれないぞ」

「おっさんはそういうとこは優しいよね、本当に。大丈夫だよ破片で頭を軽く切っただけだと思うよ。衝撃でガンガン痛むけど」

 冷静に文了は自分の体調を分析しながら話す。

「良かった、本当に良かった……」

 十子は文了が無事だということに安心して、


 そして、気を失った。


「おっと」

 台東が寸前のところで上手く十子を支える。

「この奥さんのほうも救急車で運ばないといけないだろうな」

「私よりもどっちかというとそっちの方が優先だろうねぇ」

「お前もだ。一応検査を受けろ」

「やれやれ。おっさんは私に何かあるとすぐ検査しろとか本当にしつこいなぁ。こんなの唾付けとけば直るって」

 そう言って文了は真っ赤に染まった人差し指をパクっと口に運んだ。

「んー、やっぱり錆び臭いや」

 文了はなんとも表現しがたい表情をした後に、


「だけど、そこがいいよね」


 とポツリと呟く。

「ん?」

 ふと、文了の手に当たるものがあり、手に取る。

「……ふーん」

 文了がそのカードを見るなり、ポケットに仕舞い込んだのであった。

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