父からの手紙
黒秋
第1話
#2931 8月27日 光一君へ
郵便受けを開けると
そう表面に書かれた封筒が中にあった。
今、自分の頭上にある空よりか
やや青い色をした封筒である。
その中に いつも通り
一通の手紙が入っていた。
『やぁ、そろそろ夏休みも終わりだね。
前も2.3回ぐらい言ったかもしれないけど
夏休みの宿題はちゃんと出来ているかい?
まあ僕の自慢の息子の君なら
それくらい出来てるよねぇ!
まさかぁ、終わってないとか
そんなのは無いよねぇ?』
ほんの少しうざい文面から
この手紙は父が書いたものだということが
ちゃんと分かる。
『ごめん、この夏も帰ってこれなかったよ、
本当は君を遊園地に連れて行ったり、
公園で遊んだり、海に行ったりして…
あ、あとゲームとかで
ボロクソに負かしたかったのになぁ』
最後ら辺が蛇足だな。
『仕事柄休みが取れないんだ、
本当にごめん、もう愛想尽かして
この手紙読んでないかもしれないけど
一応毎日書いて送ることにするよ、
例えこっそり住所変えても
ハイテクミサイルみたいに
追尾してお届けするさ』
手紙を少しクシャッとしながら家に戻り、
リビングの木椅子に座って
片手にコーヒーカップを持つ。
朝に コレ を飲むのは俺の日課であり、
たまに家に帰って来て
朝をゆっくりと過ごす父が行なっていた
ちょっとした儀式でもあった。
『朝のコーヒーは
身体にあまり良くないらしいんだけどね、
その背徳感が素晴らしいのさ!』
と10年前言ってたのを今でも覚えている。
しかし決して俺の この行為 は
父を踏襲している、とかではない。
この高質な黒い湯の
芳醇な香りや苦味の中の仄かな甘さが
嗜好品として優れているから
摂っているというだけだ。
『あ、話は宿題に戻るけどさ、
君は僕に似ているから、
多分課題に自由研究とかがあったら
今日まで残してるんじゃないかな』
そんなことをピンポイトで当ててくるところ
「親子で似ている」とも思ったが、
親父みたいな変なギャグセンス、
俺はもってないから、少なくとも
完全なる親父のクローンでは無いようだ。
『それでね、封筒の中の手紙と一緒に
写真を何枚か入れたんだ。
海の生き物調査とかの名目で使いなさい。
先生が 海の魚 写真 で検索しても出ない
父さんが自ら調達した特別な写真さ』
封筒の奥を探ると
わざわざ小さなポケットが作られており、
その内側には数十枚に及ぶ
魚の写った写真が入っていた。
『ちゃんとスーツ着て
海に潜って撮ってきたんだぞ、
褒めてくれ!讃えろ!崇め奉…
あ、痛い!胸が痛い!外は暑いのに
なぁんで海の中は寒いんだろう!
心臓に悪いぜ全く!』
奴は海の中で手紙を書いてるのだろうか。
…まあそれは置いといて、
珍しい魚や綺麗な魚など、
まず近郊の海では見られないような魚が
沢山写っているのが分かる。
その全ての写真の中央に
父さんがピースしながら写って無かったら
感謝していただろう。
『…あ、そうだ、気づいたか?
ワシもう45なのに顔とか肌とか若くね?
まるで30代前半くらいって感じしない?』
ダイビングスーツだからよく分からないが、
まあ確かに、
俺が幼い頃に見た父さんの顔と
全く変わってない感じがするな。
『いやぁーまだまだ現役すぎてやばいわ、
モテモテ過ぎて出張先の美女達からも…
おっと、待て、母さんには
内密に頼むぜぇ?』
残念ながら数年前から
手紙の内容は母さんには筒抜けだ。
家に帰って来たらどうなることやらな。
『さてさて今回もここまでにしとくか、
部下が 隣で「社長!この件に頼みます! 」とか言ってるしなぁ!
いやぁ頼られるのは悪い気しないねぇ!』
最後まで笑顔が想像できるような
文面で手紙は終わっている。
貴方が何枚残し、これから何枚届くのか、
自分でも想像はつかないが、
少なくとも 全部の手紙を読み終わるまでは
あんたのところには行かないと決めている。
せいぜい父さんの方がこっちに戻って来な。
「フッカフカのベッドで横になってるから
ぜーんぜんそっちに戻りたく無いなぁー
…あ、こっちにも来ないで良いよぉ?
せいぜい80年後ぐらいか…
あ、1億年後ぐらいでも良いと思います!』
なんてふざけて言いながら
奴はあっちでダラけてるに違いない。
俺が思うに最高の父親である貴方を
夏にちなんで 線香花火 と呼びましょう。
最高の敬意と愛を、
今日もこの日記に綴ることで表します。
表面に 9年目 と書かれた
分厚い日記帳を閉じた。
父からの手紙 黒秋 @kuroaki
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