平田暁美

「次の人どうぞ」


「はい」


「お嬢ちゃん、今日はどこの具合が悪いのかな」


「頭が痛いの」


「どんな風に痛いのかな」


「お寺の鐘撞きみたいな感じ。ゴーンゴーンって」


「なるほど」


「じゃあどこが痛いのか、ちょっと触るからね……どうかな?」


「痛くない」


「ここは?」


「あっ、うっ」


「ここは、眼窩皮質」


「あとここらへんも痛い時あるよ」


「偏桃体の周辺か」


「へんとうたい?」


「おでこのことだよ。さて素質はありそうだな。まだ卵、いや卵でもない。だが適切な処置を施していけばいつかはなるだろう」


「…………」


「最近は本業の方の客が減ったからな。この国家は洗脳社会だ。他の国もそうだ。教育とか言いつつ、個を殺し全に従うように洗脳している」


「?」


「ああ、ごめんね。難しい話をしてしまったね。独り言だよ」


「先生、お医者さんになるにはどうしたらいいの?」


「おやおや、君は医者になりたいのかい」


「うん。みんなの病気を治したいの」


「そうかそうか。それならうんと勉強をしなくてはいけないね」


「わかった。勉強する」


「それと、学校は全て私の出身校にしなさい」


「どこに行けばいいの?」


「受付の横に私の経歴がある。そこに書いてあるから、その通りに進学しなさい。いろいろと私が口利きしてあげるから」


「お医者さんになれば、私の病気も治せる?」


「でも、君がお医者さんになるまでは、あと十年以上はかかってしまう。それまでの間は私が直すために努力してあげよう」


「わかった」


「実際のところね。私はサイコパスを治すことが専門なんだよ」


「さいこぱす?」


「そう、サイコパス。その病気を治すことに悦びを感じているんだ。君もいつかわかるさ。治されるサイコパスの身になればね」


「私はさいこぱす?」


「いや、まだだよ。まだサイコパスじゃない。でもいつか、いつかそんな日がやってくるのかもしれない。でも大丈夫、君には処方箋を出し続けているから」


「うん。わかった」


「じゃあ今日はこれでおしまいだよ。平田暁美ちゃん」

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