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深くは話さなかった。


泊まっていったけど。智ちゃんを家に帰したくなかったのに帰したかったのかも。

最悪なベッドで、二人天井に向かって話した。

扇風機がうるさい。


「どこに帰るの」

「とりあえずは大和のとこかなあ」

「なんかさ」

「うん」

「他の友達に会ったら、なんていうの」

「…転んだとか」

「え?」

「え?」

「すごいかっこいい転び方しなきゃそんなことになりません」

「仕事も休んでるんだ」

「そりゃーそうだね」

「ぼろぼろだからさ。ファンも帰るわ」

「ファンね」

「つっこめよ」

「めんどくさ。お前」


「また会えるかな」


「何が?」


「…」


「は?」

私は起き上がる。すると智ちゃんは

「せつない話みたく、してみたあ」

とアホみたいに言うから殴った。


人は皆単体で生きている。


次の日の朝、傷の手当てをしてあげたら、智ちゃんは私の家を出た。

「もういいの」

「うん」

「…」

「ほら怪しまれたり」

「もう一泊してけよお」

「今日は帰らなきゃ」

「…」

「いや普段は普通だから」

「ゾンビみたいな見た目でよく言うね」

「いや最悪あなた」

「またおいで。むしろ今日おいで」

「また連絡するよ」


「うん」


「じゃねお邪魔しました」


「はい、きいつけて」



扉が閉まった瞬間、「待ってました」というようにまた涙が止まらなくなった。どうやったらあんな傷だらけになるんだ。とか、私にできることがもはやわからない。とか。

今日、仕事なのに。

涙が止まらない。


絶対智ちゃんも、帰り道泣いてた。


せっかく手当したのに。



大和くんに連絡した。


【今日なにしてんの?】





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