09

頬には痣、口元には切り傷、腕には擦り傷、腫れぼったい左目、肩にも痣、腕の第一関節には謎の蕁麻疹がある化け物が智ちゃんだった。


智ちゃんが涙をこらえてテレビを見ているので、ベッドを見つめる。


空気に重心がかかってるように感じるのは、多分この部屋で私だけだ。


「こいつさぁ」

智ちゃんがぼんやり口を開いた。テレビには、全然面白いお笑い芸人が写ってる。

「毎日見すぎて、頭ん中で友達みたいになってるわ」

「変な現象」

「ならない?」

ふとこっちを見たので、思ってしまった。


ボコられすぎだろ。


私が吹き出す。

「ちょ待って。ごめん」

「えぇ?」

「いやボコられすぎだろ。智ちゃん」

「やめろお前笑うな」

二人で、笑が止まらなくなる。

「なんか普通に話し始めたわこの人と思って。ごめん」

「そう言われるとやめて、笑ったら死にそう」

大爆笑のこの会場で、ちょこちょこ私はベッドが気になった。違う。

罪悪感ではない。なんでもない。わからない。


笑いがお終いになると、また静かになった。


「智ちゃんはいっつも重要なことを言わない」

「そんなこと」

「いつもは余計なこともうっさいのに」

「きいだって」


私は、自分の足の指を見つめた。ふと、もしかして間違えたのかもしれないと思った。智ちゃんは、悟る。私を悟る。

私はたまに、智ちゃんを悟れない。


「どうしたのさ」


笑いと涙が、同時にこみ上げた。


「…」


信用じゃなくて、言えないんだろうなあ。


「私」





「うん」





「大和と別れようかな」






「…」






「あいつおかしいよ」




私のベッドが、私の眼力によって壊れた。



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