08

んでセックスした。


智ちゃんからの連絡はない。

自分の部屋のベッドを見つめて、相変わらず思う。

この世の全てがたいしたことじゃないってこと。


「帰るの?」

「うん」

「あぁそう」

「聞かないの?」

「何を?」


「めんどくさいこと」


そういや中学校の時、めんどくさい女の子が居たなあ。





「きいってなんで智ちゃんと仲良いの?」

真夏のプールサイドで、仲良くもない有紗ちゃんと二人きりで喋らねばならない空間が訪れた。

その子は、智ちゃんのことが大好きで、一番の親友にはなれないことをいつだって根に持っていた。きっとそれは私が居るからだと思っていたけど、それ以外にもきっと原因はいっぱいある。

「昔から一緒だから」

「ふーん。私よく智ちゃんと居るとさ二人似てるねって言われるんだけど、そうかなぁ?っていっつも」

「うん。全然似てない。」

「喋り方とか服装とかさ」

寄せてんでしょ。

智ちゃんが、みんなに紛れてプールでぷかぷか浮いている。ふざけている。智ちゃんは運動神経が良かった。私はポンコツだったからずっと羨ましかった。

智ちゃんがこちらを見る。

有紗ちゃんは私が声を発すと思ったのか、大きな声で

「智ちゃん何やってんの」

ってわざとらしく笑った。

どうでもいいなあ。智ちゃんが水中メガネをはずしてこちらに水を重そうに歩いてくる。

私のほうを見てる。

「きいズル休みでしょ」

私に話しかけた。

「ちがうよ。足痛いの」

「よく言う〜こいよ」

「ほんとだよ足痛いんだって!」

それを聞いて有紗ちゃんは、むすっとしないようにわざとらしく笑ってた。そして

「今日ね智ちゃんと初めてプリクラ撮りに行くの」

ってわざと自慢してきた。私、智ちゃんとプリクラなんて死ぬほど撮ってるし、そんなこと全然どうでもいいのに。

「そうなんだ」

「そー有紗と撮ったことないから。きいも行く?」

得意の絶妙な天然で、智ちゃんが私を誘うから有紗ちゃんの顔がどんどん引きつっていった。

「行かない」

私、空気は読める方だった。


次の日私は、智ちゃんと帰り道アイスを買いに行った。私たちが住んでる街は東京の何倍も田舎で、ギャグみたいに「アイスクリン」って書いた旗が立っている屋台が学校の少し歩いたところに蝉の声と隣り合わせで存在していた。


「有紗がさ」

智ちゃんは相変わらずその時も棒アイスを食べていた。

「うん」

「私たちって似てるよねって、そうゆう空気をたくさん出してくんの」

「垂れてるよ」

木の棒を伝って智ちゃんの手をべたべたにする、自称アイスクリン。

「きたねっ。ほんとだ。まただよ最悪」

「棒やめたらいいじゃんね」

「きいは棒アイス食べてんの見たことないね」

「垂れてくるでしょ、嫌なの」

「アイスなんてそんなもんじゃん」

「前向きですね智ちゃんは」

「そんな犠牲で美味しいんでしょ」

「なにその考え方。頭変」

智ちゃんは店員のおばちゃんからウェットティッシュをもらって手を一生懸命拭いてから

「私って有紗に似てるかな」

「わかんない」

「あんな感じなのかな。ごめんだけど自分を持ってないみたいな仕上がり」

「言ってやろ」

「ややこしいことすな」

「誰が似てるって言ってんの?」

「え?」

「よく言われるんでしょ?自称」

「どうせバカみたいなやつらだろうな」

「智ちゃんはなんて言ったの」

「なにが。いつ」

「似てるって言われるんだって有紗が言った時」

智ちゃんは笑う。

「あいつ私のこと好きだなって思ったよ」

「思って?」

「どこがだろうねって」

「いいこぶってるね」

「なにそれ。私が?」

今年はすごく虫に刺される夏だな。とか考えながら、智ちゃんより早くアイスを食べ終えたの覚えている。

智ちゃんの足元には蟻がたくさんいた。




大和くんは私を見つめる。外は雨が降っているのか、部屋の中は薄暗かった。

「聞いて欲しいんだったら聞くけど」

「きいちゃん今なにしてるんだっけ」

「今って?」

「親友の彼氏と寝てるんだよ」

大和くんは変な顔でにやっとしてから

「なんか面白いね。悲しい」

と私を抱きしめようとした。

肌の温度が、マイナス100度だ。なにも感じない。

「私全然大和くんに興味ないや」

そう私が言うと

「いい子だって聞いてたのにな」

って私の目を見た。だから思った。



は?



智ちゃんからの連絡はない。


私は天井を見上げていろいろなことを考えていた。

ベッドに寝転ぶと、全然知らない人の匂いがしてうざくって、変な蕁麻疹が出た。ほうがましだった。

後悔なんてしていなかったと思う。どうせこんな男は智ちゃんの最後の男にならない。

相変わらず私は無機質で、淡々としているという事実だけが透明に私の頭にぶら下がる。


【今日ありがとね】

大和くんだ。しょうもない。

【うん、】

また来てね。とも、ごちそうさまでした、とも、こちらこそ、とも思わなかった。

思ってないことは言わないんだ。


日が経った。

髪の毛を切って欲しいのに、智ちゃんから連絡は無かった。忙しいとよくあることなんだが。


あれから、バーに大和くんは来ない。そうゆうことね。


朝方、まだ薄暗い空が晴れてるのをみて悲しくなった。元気ですね。小さいころ、私はこんなに昼夜逆転する大人になるなんて想像して無かっただろう。もっときらきらした大人を想像していたかと言われると微妙なんだが。


家の近くまできて、ふと視界に何かが入った。

私の部屋はアパートの2階、ドアの前に何かある。

こんなことは初めてで、少し立ち止まった。一歩歩くたびにそれが人だということがわかって、私は恐る恐る階段を上る。


恐い。どうしようかな。


私の家のドアの前でうずくまる、それは

見たことある服を着ていた。

「え?」

間抜けな私の声に気付いて、ゆっくりこっちを見る。

「きい」

傷だらけの、智ちゃんが落ちてた。

それだけなのに、急に涙が止まらなくなって私は智ちゃんを抱きしめた。

「どうしたの?」

って言うと智ちゃんも泣き始めて、

「どうもしないんだよ」

って言った。痛かっただろうなあって、傷を見るたびに心が痛くて涙が止まら無かった。必死で必死で智ちゃんを抱きしめた。


早朝4時。

「このままじゃ不審者二人組だと思われる」と冷静になった私たちは部屋に入った。




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