06

「映画最近面白いのないよね」


智ちゃんと電話していた。私は布団の中だった。


「そお?あれ見たいあれ」

「なによ」

「あれよあれ、出て来ない」

「もうええわ」

「言いたい。ここまででてるのに」

「ないよ」

「はーい」

「てかこの前職場でさ、めっちゃすごい顔の人きて」

「すごい顔ってどんな?」

「聞いて、『この髪型にして下さい』って山Pの写真見せてきたの」

「あ男なのね」

「真顔だよ!どーゆうことだよおまえ」

「山Pのバージョン違いでもないの?」

「ないよ全然!…田辺にちょっと似てたかな」

「いや智ちゃん付き合ってたね」

「付き合えないよあんなのと!正気じゃ!」

あん時は正気じゃなかったのね。


「てかさ」

「ん?」



「なんでもない」



最近智ちゃんは、大和くんの話をしない。

その違和感は、何か懐かしいものに繋がってしまいそうで脆かった。


あれから大和くんは何度か、うちのお店に一人で来た。智ちゃんには内緒にしている。最近、大和くんの話をしないし。

鉢合わせても知らないよ。


「智はこないよ」

「え?」

「当分飲みにこないよ」

「忙しいのかな夜」

「なんかそれっぽいこと言ってた」

大和くんと、三人で飲んだあの日からしばらく私と智ちゃんは会ってなかった。ちょこちょこ電話はしてたけど。

大人になってからはよくある話だ。

大和くんは、暗い照明の中いつもの優しそうで常連さんと仲良くなったり、タバコ吸ったりしてた。




「なにそれ」



電話越しに私が返すと、智ちゃんは

「私って多分、ピンチの時きいしか思いつかないくらいが丁度いんだわ」

「どゆこと?」

「彼氏がいたり家族が近くにいたらさ、選択肢増えるじゃん」

「例えば?」


「んー事故ったりー拉致られたりー殺されたり」


「私は彼氏なんていないから多分智ちゃんに助け求めるなぁ」


「急に鬼電とか、かかってこない限りさ。気づかないよねきっと」


「なにが」


「例えばきいが今本当は監禁されてるとか。ありえるでしょ」


「ありえないよ」


「私が明日から総理大臣になるとかね。」


「勘とか無いのかな。そゆとき。センサーみたいな。てか智ちゃん小さい頃めちゃくちゃ歌手になりたいを押してたよ」


「ははは、なつかし。きも」


「…智ちゃん」


「ん?」


「大和くんの話最近しないね」





「あー…なんかもう慣れちゃって。一緒に居すぎってこれね。」





「そんなもんかね」





「いや今朝もパンツ脱ぎっぱなしだしさ、些細なことだよ。怖いわ。慣れ」





「でもなんか羨ましいけど。私は」











「どこが」









「私この前会った時、幸せってこれなんだなって思ったくらいだよ。きもいって思ったでしょ」











「なんだそれ、へん」








「眠くなってきた」














「わたしも」






















「おやすみ」


















「おやすみ」




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