02

智ちゃんと私は小学校からの同級生で、智ちゃんはいつも何かのリーダーだったりとか、何かに特化してる存在で、そのくせめちゃくちゃ普通だった。


小学校のとき、

「きい、歯になんか挟まってるよ」

って言って指差してきて、嘘だったし。

「きい、鼻の下青いよ」

って笑ってきて、嘘だったし。全然面白くないのに傷つくこともすぐ言える。

そんな意地悪なのに器用に私のことを大事にした。毎日一緒に帰ったし両親も仲良しで、喧嘩も一回しかしたことない。


その一回っていう喧嘩は、中学校のとき智ちゃんが大好きだった先生がいて

えらい、いい声の美術の先生で新山って呼び捨てされてた。


ある日、その人に私褒められた。


テーマが決まってない版画だったんだけど、「きいはセンスがある」って。多分あれ、適当に言った。

したら智ちゃんはそれを見て、必死に誰から見ても意味わかんないめちゃくちゃなものを作って、でも、無理だった。

だって智ちゃん普通だもん。


「今日きい新山に褒められてたね」

って無理矢理笑って私に耳打ちしたけど、その笑顔が一番意味わかんないめちゃくちゃだった。

「別にあれ適当でしょ」

「いいなあ」

智ちゃんは新山が大好きだからいっぱい話しかけて普通に気に入られてたけど、ただの仲良しで

私はなるべく新山と話さないようにしてたけど、たまに新山から話しかけてきた。

「きいって地味に新山に気に入られてるよね」って理不尽なことを

全く読み取れない顔で明後日の方向とか見ながら言うから

「それ智ちゃんでしょ」

「いや、私はさ。好きだからさ。わかってんだよあいつも」

季節は肌寒い冬だった。


そんな些細な事で智ちゃんは私と少し距離を空けて平然を装ってきて、得意の人気者で配置した友達と笑ってた。

智ちゃんはそのうち、新山のことが大好きな癖に同じクラスの田辺に告白されて付き合った。

のを周りから聞いた。


私以外はみんな知ってる程で息ができてたけど、私は知らない人間の程だった孤独を智ちゃんは楽しんでいて。わざとってわかってたから知ってたけど言われるまで、付き合ってるの知らないふりしてやった。毎日一緒に帰ってるのに。

私に秘密にしてることを輝かしいとでも思ってるのかいつもの普通の話がきらきらの笑顔でぐちゃぐちゃした違和感で進んでって、「もういいよな」って時に

「てか田辺と付き合ってるんだね、言ってよー」

って言ったら

「はじめてだよ彼氏とか」

ってごめんねも言わないし。一時の意地悪がすごく延長した感じになってて


智ちゃんは、なんで私と仲良くするのかわからなくなった。


それからしばらくして、バレンタインの日。私には、なりゆきで隣のクラスに彼氏がいて

その子にチョコを渡そうと廊下を歩いてたら


新山が偶然教室から出てきた。

「きいもバレンタインか」

下の名前で呼んでくることさえ居心地悪いその話し方に、とっさにひらめいてしまって。

「先生にあげます」

って割と本気みたいなお芝居で言って


渡して逃げた。


「きいチョコ渡せた?」

帰り道、智ちゃんが言うから


「新山に会ったから新山に渡しちゃった」


って言ったら

智ちゃん。めちゃくちゃ面白い顔して動揺して


「なぜに」


「いたから」


「きい、かれしは?可哀想じゃね。彼氏が!適当かよ」

「なんかいいやってなっちゃった」

「彼氏の気持ち考えなよ」

って明らかに思ってない方の言い訳が感情的に私に飛んできて嬉しかったので


「じゃあ取り返してきて」

って言ったら、智ちゃん泣いた。


「むかつく!!」

って言いながら鞄私にぶん投げてガキみたいにガキが泣きわめく。


私の意図を組み取ったのか本当のところ組み取ってないのかわからないけど、

てか私の意図が私にもわからないけど

その後公園のブランコで2人でオレンジジュース飲んで智ちゃんはずっと泣いてた。


そんなに好きなの?

うそだあ。


私は星空みてた。そ、気づいたら夜になってて

親に言い訳2人で考えてた。


自分で「残念でした」を作ってしまう智ちゃんの腫れた瞳を見つめて

つまんないって思って、心で大爆笑してたのかも私。きらきらしてたかも。輝かしかったかも。


ちゅうがっこう。


ホワイトデーに新山が手作りクッキーに手紙添えてきて、それはきもいからコンビニのゴミ箱に捨てた。めちゃくちゃあいつ嫌い。



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