第7話 田舎の蔵で起こった怪事件2 解決
入口には鍵が掛かっており、他に出入りできそうな窓にはネットが張られた蔵。一応、密室と言えないこともない。そんな中にあった米袋に、どうして穴が開けられていたのか。
これが推理小説であれば、探偵役が調査を開始するところなのだが、あいにく現実の出来事である。謎を解明するよりも、米袋をどこか安心できる場所に移すことを優先した方がいいだろう。知り合いにもらった良いお米なのだ。
住居に戻った私は、台所の収納スペースを片付けて強引に場所を作ると、再び蔵へと戻った。
何気なく蔵の扉を開けると、中で何かの気配がした。
驚いて覗き込むと、米袋の近くに、子供ぐらいの小さな黒い影がうずくまっている。
その何かは、蔵の扉が開いた音に反応したのか素早く蔵の奥へと走っていく。
逃げ道などないのにどうするつもりか、と思った私の前で、それはするすると柱を登りはじめた。
ある程度の高さまで登ると、それは三角跳びの要領で柱を蹴ってジャンプすると窓へと取り付いた。窓にはネットが張られていたのだが、犯人らしき影はひょいとネットをめくると、あっという間に外へと姿を消してしまった。
私は、犯人の姿を確かめようと蔵の裏側へと回った。しかし、それは既に遠くへ逃げてしまっていて、ただ小さな茶色い背中がわずかに見えただけだった。
おわかりだろうか、犯人は小さな猿だったのである。まあ、人ではないから犯人という表現が適切かどうかわからないのだが。
蔵に戻って窓を調べてみると、ネットの下側の部分が切れていた。どうやら猿は、窓に張られたネットを引きちぎって蔵に侵入したようなのだが、下側だけをうまく切ったので異常がないように見えたのである。つまり、ネットは暖簾のように垂れ下がっている状態だったのだ。おまけに、蔵の内部が薄暗いため、下から見上げただけでは異変に気づかなかったということもある。
蔵の外を調べてみると、雨樋に傷と汚れが見つかった。猿は雨樋を使って蔵の屋根に登り、身軽さを利用して窓に飛び移って内部に侵入したようだった。
いかがだっただろうか。一見、外部から忍び込むことが不可能なように見える蔵。そこに侵入した犯人は猿だったのである。
これは本当にあった話なのだが、もし推理小説でこのトリックを使ったらアンフェアと批判されそうである。
あれ、でも古典的な名作でこんな話があったような気が……。
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