第6話 田舎の蔵で起こった怪事件1 事件発生

 数年前に実際に起こった出来事である。


 私が住んでいるところは結構な田舎で、住居もかなりの年代ものだ。家の隣には古い蔵があり、そこに様々なものを保管している。

 ある日、知り合いの農家の方からお米を30キロほど袋でもらったのだが、ちょうどいい収納場所がなかったのでひとまず蔵に入れておくことにした。季節は秋から冬に移り変わろうとするぐらいの時期だったので、温度的には問題ないだろうという判断である。古い蔵なのでネズミが心配だったのだが、それはネズミ捕獲用の粘着シートを周囲に配置することで対策した。


 数日後、蔵の様子を見に行くと、米の袋に穴が開いて中身が床にこぼれだしていた。

 箒とちりとりを使って、こぼれてしまった米粒を片付けたのだが、不思議なことに気がついた。米の袋は立てて壁際に置いておいたのだが、穴は床から30センチぐらいの高さのところに丸く開いている。こういった場合、第一の容疑者にあげられるネズミなら、大抵は袋の底の方をかじるものだ。しかし、目の前にある米袋は床から高いところに穴が開いている。もしネズミが犯人だとすれば、後ろ足で立ち上がって米袋をかじったことになるが、わざわざそんなことをするだろうか。


 米袋の周囲に配置した粘着シートを確認したが、ひっついているのは小さな虫とほこりだけである。何かが、強引に脱出したような形跡もない。ネズミとて知能はあるわけだから、罠を回避することは不可能ではないのだろうが、釈然としない。

 不思議な点は他にもあった。それは米袋に開いた穴である。穴は円に近い形で、ネズミが歯で食い破ったにしては妙な形だ。強いて言えば、人間が障子に指で穴を開けるかのように、何かを突き刺したような感じである。ただ、米袋はかなり頑丈で、普通の人間が力を入れたところで簡単に穴が開くものではない。


 不審に思った私は、蔵の内部を見回してみた。出入りできそうなのは場所は、入口の扉と高いところにある小さな窓の2つだけである。

 入口の扉は頑丈なものだが、普段は鍵をかけていない。これは田舎であることに加えて、大したものが入っていないからである。それに、古い扉は立て付けが悪くなっているので、かなり力をいれないと開けることができない。

 小さな窓は、古い建物なのでガラスは入っていない。それでも、おおよそ2階程度の高さにあり、足場になるようなものは蔵の外にも中にもないので、何かが侵入することは困難だろう。

 もちろん古い蔵なので、ネズミなどの小さな生物が侵入できるぐらいの隙間は無数にある。だから、ネズミが犯人であれば何の不思議もないのだが、それだと米袋の高い位置に開いた丸い穴が不思議である。


 近所の住人に、このことを話すと「そいつは鳥の仕業じゃないか」という答えが返ってきた。

 なんでも、小さな鳥は巧みに飛行することができるので、小さな開口部から建物の中に侵入してくることがあるだ。近所の住人は、米ぬかを入れた袋を蔵の中に保管しておいたら穴だらけにされたそうである。

 なるほど鳥が犯人という線もあるのか、そう思った私は対策を講じることにした。


 脚立を用意して、蔵の窓にネットを張ることにする。

 ネットは、きゅうりや豆類の栽培に使用する農業用のものだが、しっかりとしていて鳥の侵入を防ぐには十分だろう。窓の木枠に釘を打ってネットを固定した。鳥が激しくぶつかってくるとは思えなかったが、木枠の上だけでなく下や横にも念のために釘を打っておく。作業の時に、窓から蔵の外を眺めてみたが特に変わったものはない。窓自体も小さなものなので、泥棒が侵入しようとしても、よほど小柄な人間でないと無理だろう。

 次に、米袋の周囲にネズミ取り用の粘着シートを増量した。本当は米袋を別の場所に保管すれば良いのだが、あいにく適切な場所を探している途中である。

 仕上げに、蔵の入り口に鍵を掛けておくことにした。米袋に穴を開けたのが、誰かのいたずらだとは思わなかったが念のためだ。全ての作業を終えた私は、得意な気分で住居に引き上げたのだった。


 数日後、鍵を開けて蔵の様子を確認した私の目に飛び込んできたのは、またも穴を開けられた米袋の姿だった。

 すぐに蔵の内部を確認したが、特におかしなところはない。粘着シートは少し場所がずれているようだが、何もひっかかっていない。ならば、と上を見上げたが、窓には農作業用のネットが張られたままになっている。


 入口の扉には鍵、窓にはネットがある。粘着シートの様子からすると犯人はネズミの可能性は低い。ならば、米袋に穴をあけたのは何者で、どうやって蔵に侵入したのだろうか。

 薄暗い蔵の中で、私は一人で考え込むことになった。

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