第2話
おけいをあやしながら、おてつは伊作の家に戻った。
しかし臭いのに気づいた。
「おしめ出してちょうだいな。替えてあげますから。」
おてつと子供を迎えて、のっそり立っている伊作にそう言った。伊作は慌てて隣の部屋からおしめを出してきた。
開いてみると、子供の股ぐらはすっかり汚れてひどい臭いだった。股ずれが出来て赤くなっている。こまめに取り替えていない証拠だった。
「濡らしたままにしていちゃ、いけないんですよ。ほら、赤くなっているでしょ!」
おてつは黙っているのが気詰まりで、手を動かしながらそう言った。
伊作はため息をついた。おけいは、ちらりと伊作を見た。
暗い顔をして、途方にくれているように見える。
「お店の方は、あれからずっと休んでいるのですか?」
おてつは黙っていられなかった。
「店を休んじゃいけないんじゃないの。
これからの赤子を育てる役目があなたにはあるのよ。おかみさんの実家の方は、どうなんですか。」
「・・・・・・。」
伊作は黙ってうつむいている。
「それじゃ、困ったわね。」
おてつは言ったが、少し深入りしすぎた気がした。
立ち上がったおてつに、伊作がもぐもぐと口籠もりながら、お礼らしい口上を述べた。
そして折れるほど首を垂れて泣いた伊作の姿が浮かんできた。
そして、ギャアギャアと泣き喚いていたおけいの顔を思い浮かべていた。
実際、泣きたいほどとは何だろう。
伊作の口から、ため息が「ふーっ」と出た。
伊作は、幼い頃から親に甘えてばかりいた。
「おけいちゃんは、あたしが預かってあげますよ。
家には、おっかさんもいるし。おけいちゃん一人ぐらい面倒見られるのよ。」
おてつは言った。
「だから、お店は休まないで。」
人向両国の広場で、小屋掛けの軽業を見てから、おてつは作次と連れだって両国橋を渡った。
「ちょっとその辺で一服して、それからぶらぶらと上野の方に行ってみようじゃないか」
「池の端に、生きのいい魚を喰わせる店がある。そこで晩飯でも食おうや。」
と、作次は言った。
おてつはちらりと作次を見た。
作次は、日雇いの仕事もしていた。それはもっぱら幕府の御用達である。
土木も外堀の水かきもやった。そんな仕事と店子を再度始めたのは、幼子の時両親のトラブルで祖父が築いてきた田・畑を売り、村八分の身の上になってしまったからだった。
そのころ祖父の築いた居宅も売ってしまった。
村八分とは、葬式や火事場の水揚げ仕事の二分を除く村の集会一功を停止されたわけである。
おけいの泣き喚いている赤い顔が目に浮かぶ。それを見ながら、お勝が悪態をついている姿も見える。
お勝は赤ん坊を預かるごとに強硬に反対していた
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