第3話 古代文明の遺物

 直樹が目覚ますと、頭上には見慣れない配色の空が広がっていた。

 すみれ色を背景にピンクの雲が流れておりシュールな光景だ。

 自分が何処にいるか思いだした直樹はが体を起こしたが、体の動きと共にあちこちに痛みが広がり、骨折を思わせる。

 昨日出会った3人は窪地を囲む岩の上に顔だけ出して、周囲を眺めており、シンヤが双眼鏡のような道具で遠くを観察している。

「どうだ、脱出できそうなルートはあるか」

「平野に続いている南側の谷は論外だな。ソウルイーターが群れをなしているうえに、メガロブスターまで見える」

「東の峠はどうだろう」

「ちょっと待てよ。今ズームしてみるから」

 周囲の野原は草や灌木が生えているし、遠くの山は樹木に覆われているが、木々の色彩が変だ。

 植物の葉は黄緑がベースで黄色がアクセントとなった配色で違和感が強い。

 植物以上に、地上に棲息している生き物は外骨格生物が主体でその姿は悪夢から抜け出したような異形の存在だった。

「リオル、目が覚めたのか!」

 ミツルが直樹に気がついた。

「ミツル、この人の名前はナオキだ」

 ルークが訂正した。

 ルークは落ち着いた性格で三人の中でリーダー的な存在のようだ。

「君たちはここで何をしているんだ。ここには軍として派遣されているのか」

 正規の軍隊にしては指揮系統が存在しないし、軍人にしては彼らは年齢が若すぎるように思える。

 ルークはゆっくりと答えた。

「軍ではないよ。僕たちは政府から私掠免許をもらって、お宝を探しているところだ」

 私掠免許の概念は直樹の記憶にあった。

 中世のヨーロッパで強大なスペインと覇権を争っていたイギリスが、本国から遠く離れた海洋でスペインの勢力をそぐために私掠免許を発行して海賊行為を奨励していたのだ。

「海賊をしているのか」

 ルークは直樹の質問を聞いてしばらく考えてから答えた。

「海賊行為もすることはある。だが、何て言えばいいのかな。僕たちの文明は二千年前にはもっと栄えていた。そのころの遺物を発掘したら、高く売れる。戦って金品を奪うよりそちらの方が多いな」

「四人だけのグループなのか」

「百二十キロメートルほど離れた海岸に船が停泊している。そこが僕たちの家だ。仲間も沢山いるよ」

 その時、シンヤも話しに加わった。

「おまえ本当にリオルとは別人なんだな」

 直樹はうなずいた。

 話しぶりからシンヤがリオルと仲が良かったことが推察される。

「わかった、俺はもう割り切る事にした。俺はシンヤと言うんだよろしく頼むよ」

 シンヤは食料の入ったパックを直樹に渡した。

「直樹はアニヒレーターを使えるのではないかな」

「そうだ。あれは生体認証だからいけるかもしれない。体はリオルそのものだものな」

「そのアニヒレーターって一体何だ」

 直樹が聞くと、宿営地の地面に転がっている物体を指さした。

 それは長さが一メートルほどの細長い物体とその付属機器といった外観だった。

 細長い本体は円筒形ではなくてエッジを落とした四角柱型でスマートなロケットランチャーといったところだ。

「これは生態認証によるロックがあり、リオルだけが使うことが出来ました。あなたが使えるか試してくれませんか」

「それは別にかまわないけど」

 直樹が答えるとルークはアニヒレーターを拾い上げて直樹に装着し始めた。

 直樹はごついケーブルがつながったランドセル状の装置を担がされ、次にランドセル状の物体からケーブルでつながったランチャー状の部分を右肩に担ぐ。

 ランチャー状の物体は発射筒ではなくて電子機器が詰まっている雰囲気だ。

 装備が完了した頃に直樹の顔の前にとリフレクターサイト状の透明な板が飛び出した。

 アクリルボードのような透明な板の中に判別不能な文字や目盛りが存在するので、それは本当に照準用の機器かもしれなかった。 

「ルーク、アニヒレーターが起動したよ、発射できそうだ」

「そのようだな」

 ルークは、重装備を担いだ直樹を岩陰から連れ出した。

「直樹、昨日あんたを痛めつけた奴にブッ放してみるか?」

 直樹は無言でうなずいた。

 だが、直樹はアニヒレーターの正体が、ビーム兵器なのか、それともロケットランチャーの類かすらわからない。

「最初はトリガーを軽く押さえて、サイト上でターゲットを捕捉してくれ。中央の赤い十字と、丸を重ねてた状態で、ゆっくりトリガーを引くんだ」

 直樹が言われたとおりに操作していると、シンヤが双眼鏡もどきでターゲット周辺を見始めた。

「ポインティングを確認した。距離は1560メートル。有効射程内だ。右の奴が大きいからそいつをねらえ」

 シンヤの双眼鏡は距離測定機能を持った高性能な機器のようだ。

 直樹は右側のソウルイーターに狙いを定め、十時と丸がうまく重なる。

「そのまま!!息を吐いて制止してからゆっくりトリガーを引け」

 直樹は、ルークが命じるまま銃身がぶれないようにゆっくりとトリガーを絞った。

 瞬間、直樹の肩の上に担いだ装置からブンとハム音が聞こえ、ターゲットまでつながる光柱が見えた。

「射撃」は一瞬だった。

 直樹の目に残った残像が消えると、ソウルイーターの外骨格に穴が空き、表面の色は目立つ紫色に変色していた。

 どうやらソウルイーターは視覚情報から周囲の景色に近い体色を形作り、それはどうやら光学迷彩に近いもので本体が視覚で捕らえた周囲の色を反映していたようだ。

 アニヒレーターの命中でその個体は即死したと見られ、視覚情報から保護色を作る機能が無くなり体の本来の色が現れたのだ。

 やがて、ソウルイーターはばたっと倒れた。

「すげえ。」

 これがあれば、あの辺にいる連中を一掃できるかもしれないと思い、直樹は次のターゲットに狙いをつけようとしたが、顔の前のサイトはバシャッととじた。

「本日は閉店です」

 機械がしゃべったのではなく。ミツルがセリフを当てたのだった。

「何故連射できない」

「リオルが昨日半日かけてチャージしたエネルギーがさっきの一発分だ」

「リオルがチャージってどういうことよ。」

 シンヤの説明は直樹にはさっぱり理解できない。

「こいつは2000年も前の我々の祖先が作った遺物だ。生体認証が適合した人間が精神力でチャージすることによって使用できる」

 どんなメカニズムだと直樹はめまいを感じながら考える。

「チャージするにはどうしたらいいんだ?」

 直樹は気を取り直してルークに聞いてみたが彼の返事はつれないものだった。

「知らん。リオルが効率は悪いけどどうにかチャージしていたが、やり方は彼にしかわからん」

 精神力でチャージ?と考えた直樹はエネルギーが満タンになるイメージを試してみたが、彼らの古代文明の武器は沈黙したままだ。

 シンヤとルークは顔を見合わせた。

「直樹がチャージできないとしたら、こいつはただのゴミだな。」

「まあ待て、そのうち使える奴が現れるかもしれないから、一応持って帰らなければ。」

 直樹はむきになって、力んだり、精神を集中しようとしたり、様々な方法を試してみたがエネルギーゲージは動かない。

 これでは、ますます肩身が狭い思いをすると考えて直樹は途方に暮れた。

 その時、直樹はさゆみとゲームセンターに行ったときのことを思い出した。細かい作業が続いた後はマシンガンを撃って敵をなぎ倒す系のゲームで気分転換することがあったのだ。

 ゲームセンターでマガジンを撃ち尽くしたときは、銃口を上に向けるとリロードできる。

 直樹はアニヒレーターの銃口を上に向けてみた。あばらとか肩の骨が痛むが構っていられない。

「リロードだ。」

 直樹がイメージした瞬間、背中に背負ったランドセル状の装置がブンとうなるのが聞こえた。顔の前にサイトがパキョンと飛び出してくる。

「おい、今何をしたんだ。」

 ルークが叫んだ。シンヤも気付いて駆け寄ってくる。

「すげえ、エネルギーゲージが満タンになっている。こんなの始めてみた。」

「チャージできたんだ。」

 二人がハモった。

「直樹。もう一回ソウルイーターを撃ってくれ。」

 シンヤが言った。直樹が断るわけもない。

 ソウルイーターが沢山いる辺りを探して、先ほどと同じようにねらいを定めて撃った。

 銃身がうなると先ほどよりもまばゆい光柱が出現した。次の瞬間、ソウルイーターの巨体がバラバラになってはじけ飛ぶのが見えた。射線の後方にいた奴まで巻き添えにしたようだ。

 着弾点の辺りは青白い炎に包まれて燃え上がり、それが次第にオレンジ色の火球にふくれあがって上空に昇っていった。

 皆無言のままだ。

 しばらくして、シンヤが装置をのぞき込んだ。

「今のでエネルギーの3割も使っていない。次は連続照射モードにするからそれも試してくれ。」

「了解。」

「発射しながら横に動かしてみたらどうかな。」

 今度はルークが提案した。

「やってみるよ。」

 直樹は、射撃体勢で次のターゲットを探した、次はメガロブスターと呼ばれていた別種の大型個体にねらいを定める。

 発射、直樹は引き金を引いたまま銃身を横に動かた。

 射線上の生物=機械ははじけ飛び、地面や岩ですら爆裂した。

 しかし、1秒もたたないうちに引き金がロックされ、光束は出なくなった。

 銃身部からはピンポロパンポロと警告音が響き女性の声でアナウンスが始まった。

「システムが加熱しました。緊急冷却を開始します」

 銃身の外側に空気の流れができていた。それ以上に、銃身の内部からは排気口が開き猛烈な勢いで熱風をはき出した。

「あち、あち」

 後ろ側にいたシンヤとミツルが逃げ回っている。100度を優に超える熱風が猛烈な勢いで噴出したようだ。

 その時、背中のランドセル状の装置からもピヨンピヨンと警告音とアナウンスが聞こえ始めた。

「アキュムレーターに過負荷がかかりました出力※○以上での連続照射は避けてください」

 どうやら使い方がまずかったようだ。

「これほどの威力があるとは思っていなかった。直樹、もう一度チャージはできるか」

 僕は言われるままに銃身を上に上げて「リロード」を念じてみた。再び、背後からブンというハム音が聞こえた。

「フルチャージになっている。直樹すごいよ」

 遙か彼方では、得体のしれない生物=機械が炎上している。

 異世界に来て二日目、直樹は新しい仲間とどうにかやって行けそうな気がしはじめていた。

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