今まで言ってなかったかもしれないから言っておこう

 リズが改めてお礼を言おうとすると、ランスロットは、ぶっきらぼうにさえぎった。

 にやにやと笑ったリードルが、照れてるんだよーと、二人ともに聞こえる小声で言って、はたかれる。


「行くぞ、いつ復活するかわかったもんじゃねえ」

「はーいはい。リズ」


 リードルに呼ばれて、見ると手を差し伸べられている。


「え? あ。い、いいです、歩きます! 悪いです!」

「えー? でもさー、リズの歩くのにあわせてたら、あんまりキョリかせげないんだけど?」


 思ったよりも突き刺さる本当のことを、リードルはさらりと言う。

 う、と言葉に詰まったリズを、ランスロットの合図で、返事を待たずにリードルがかつぎ上げた。


「う、ううー」

「詳しい話は後だ。とにかく、奴らから離れるぞ」

「おれ、食いながら走ってもいい?」

「干し肉くらいならいいけど、詰まらせんなよ」

「そんなにヤワじゃないもんねーっ。リズ、ハイノウに入ってるから出してー」


 既に走り出したリードルに担がれたまま、リズはしぶしぶと従った。

 動きながらだが、リードルの走りが安定しているせいか、思っていたよりは困難ではない。

 ランスロットに渡してーと言われ手を伸ばすと、受け取ったランスロットが、慣れた手つきでリードルの口に放り込んでいく。

 変な人たちだ、と、改めて思う。

 そして流れていく景色を見るともなく見ていたリズに、ランスロットが口を開く。


「本当なら奴らが出てきた時点で今回の話はなしにするとこだ。けど、馬鹿さ加減にめんじて、もう一回話くらいは聞いてやるよ。お前も、訊きたいことがあるだろう」

「馬鹿、て…?」


 リズには慣れない風圧で、あまり喋れない。それでも懸命に言葉を押し出すと、それだけで口の中が干上ひあがったような気がした。


「あそこで黙ってれば、陰険もやしに目をつけられずに済んだってこと。お前一人くらい、潜んでればどうとでも逃げられただろうに」

「でき…、わけ、ない」

「ほんっと、馬鹿だな。リディ並だ」

「えー、なんでそこでおれが出てくるんだよ」

「今まで言ってなかったかもしれないから言っておこう。俺が今まで出会った中でぐんを抜いて最強の馬鹿は、お前と、ある意味カイ師匠だ。あの人はれた弱みで仕方ないとして、純粋生粋きっすいの馬鹿は、間違いなくお前」

「うっわー、ケンカ売るなら買うよ?」

「事実を言ったまでだ。本当のことを言われると、何故か腹が立つんだよな」

「むかつくー!」


 相変わらず疾走しながら、二人とも元気だ。

 リードルの首にしがみついたままぐったりとしたリズは、全ては止まってからと割り切ることにした。

 話した以上のことが話せるわけもないのだが、こうなったら、情に訴えてでもなんとか色気をひねり出してでも、承知させよう、と決意する。

 それどころではなくて何割か忘れかけていたが、国の一大事なのだ。


「ラン、干し肉もう一枚」


 …大事を任せていいのかと、疑念がよぎるのまではどうしようもなかったが。

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