理想は追いかけるためにあるんでしょう?!

「お願いします! 私にできることだったら、なんでもします! お願いします。ホーランドを…まもりたいんです…!」


 リズは、必死に頼み込んだ。

 ここで見捨てられれば、王女としての振る舞いや教養はしつけられているものの、護身術といったことは一向にたしなんでいない身だ。この森からさえ、一人では生きて出られるかわかったものではない。

 ランスロットは、リードルを起こすのは諦めたようだった。

 一人で考え込み、一方のリードルはゆらゆらと動いていた体が、鈍い音を立てて床にぶつかったが、目覚める気配は無い。

 仲間の悲劇はつゆほども気にした様子もなく、ランスロットは顔を上げた。じっと、リズを見る。


「俺たちが協力するとして、策はあるのか? そもそも、あんたは毎日バルコニーに顔を出してたはずだ。あそこで本当のことを訴えるなり、今ここでなんでもするって言うなら、自殺でもすればよかったんじゃないか?」

「…考え直してもらえないかと、思ったんです。私は、大変な恩義を受けているんです。覚えていないリーランドよりも余程、ホーランドが大切です。親のいない私を生かしてくれただけでなく、仕事を与えてくれて、振舞ふるまい方も、知識も、教えてくれました。だから、できるなら、思い直してほしかったんです」

「理想追っかけて時間切れってのは、そりゃ綺麗な話だな」


 冷たい言葉に、リズは身を震わせた。恐れたわけではなく、怒りだった。


「駄目なの?! 理想は、追いかけるためにあるんでしょう?! みんなが納得できるように、みんなが幸せになれるように、そう求めたら悪いの?! 私が死んで、それで問題が収まるなら、その剣を貸して。死にます。だけど今でも、前でも、姫様がお亡くなりになった後で私が死ねば、とつぐのがいやだったからだって事にもできるのよ!」

「なあ――何故他人のために、死ぬなんて言うんだ。姫も王も、ただあんたを利用しただけだろ。教育だって、目的のためだ。まっとうな取引だろう。礼を言う必要だってない」


 パン、と、音がした。

 リズの手のひらは、れ上がって熱を持ったように痛んだ。

 ランスロットは、打たれた頬を押さえるでもなく平然としていたが、リズの目からは涙がこぼれていった。


「あんたに何がわかるのよ!」


 悔し涙だと、リズは思った。あの人たちは気高くて素晴らしいのに、自分には、それを伝えることができない。

 それが悔しくて、情けなかった。


「王族は、お前が思うほど不可侵じゃない。利用されて、感動なんてするな。――寝ろ。この状態でまともな判断なんてできやしない。俺も、お前も」


 そう言って、ランスロットはリズの返事も待たずに横になった。

 リズは無言で、距離を取って、ぼんやりと目を閉じた。眠るつもりはなかったのに、その一瞬で、意識は闇に呑まれていた。

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