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「…きて、起きて下さい」


 できうる限りの小声なのか、囁くような声量と、ぴたりと張り付くような人の体があった。


夜這よばいなら他当たってくれよ王女サマ?」

「ちっ、違いっ、そんっ………!」

「寝させてくれ。あんたと違って俺らは交代で夜番もするんだ。眠らにゃたん」

「お願いです、話を聞いてください、あなたにも関わりのあることなんです! だから…ってコラ、寝るなっ! 起きろ! 起きろーっ!!」


 …夜闇に絶叫が響き渡り、ランはようやく覚醒に至った。

 そしてそれは、逃亡劇の始まりでもあった。


「ほら逃げて!」

「はあ? なんで」

「あんたに襲われたって訴えるわよっ?! とつぐ途中の王女襲ったなんて、死刑確実なんだからね!」

「んな無茶な!」

「ほら皆起きたわよっ」


 かくしてランは、張り付いて離れない疫病神の具現を抱え、隣で寝ていた相棒を叩き起こし、逃走する羽目になった。

 畜生愛されてる、と呟くが、普通、疫病神なんぞに好かれたいと思う者は皆無だ。

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