第20話 自分度外視の嫁


 結婚して間もない頃、実家の周りで二匹の子猫を見つけた。

 ミャーミャーと泣いていた子猫たちに、ミルクをあげたりと大忙しになった。


 その日の午後、嫁が玄関で何時間もじっとしていた。

 何をしているのか尋ねると、


 「あのね、猫ちゃんたちがね、私の首のところにいたいって、だからね、いさせてあげるの」


 とひたすら子猫の気持ち優先でじっとしている。

 このまま子猫たち優先だったら、生活が成り立たない。

 

 *


 結婚してから、私は嫁の自分を度外視した思いやりを沢山見てきた。


 ある友人の小さなコンサートに誘われた時、体調が悪かった嫁に、私は「行くのやめたら」と助言したが、嫁は「友達にとって大切なコンサートだから行くんだ」と言って聞かなかった。その後、体調悪化で2週間寝込んだ。わたしは看病に追われた。


 そんな出来事が他にも沢山ある。


 他人の気持ちや状況が時々神業的に分かってしまい、自分を度外視して犠牲を払う。正直わたしはそれに付き合い、ときに尻拭いをした。

 

 でも最近こう思う。


 もし神様がいるとしたら、神様って嫁みたいに人の気持ちも動物の気持ちも大切にするんじゃないのかなって。神様からみたら嫁が正常なのかもしれないって。


 嫁は、今までに沢山の人の心の支えになってきたと思う。

 

 嫁は言う。


 「世の中、私は生きにくい。」

 

 神業的に人の気持ちやニーズを察し、犠牲的にそれに答えてきた嫁。

 私はそんな嫁をみるのが辛い時期もあったが、今はこう言える。

 

 「あなたは間違っていない」


 そんな嫁を、少しでも多く守ることができますように。

 

 

 2匹の子猫は飼手がみつかり、無事に貰われていきました。

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