第6話 おじさんに話しかける嫁

 嫁は基本的に人が怖い。

 電話が鳴るのも怖い。

 スーパーで買い物するのも怖い。

 

 とにかく怖がりなのだ。


 そんな嫁だが、何かに集中している時は人が変わる。

 

 ある日、近所のスパーで食材を選んでいた。嫁の集中するスイッチが入った。しゃがんだまま、じっと、沢山の種類のインスタントラーメンを見ていた。どの品が美味しいのかをラベルを読みながら、じっと考えていたのであろう。嫁の集中がピークに達したまさにその時、知らないおじさんが、嫁の横にあるラーメンをカゴに入れた。と、同時に、嫁がそのおじさんに話しかけた。


 「すみません! それおいしいですか?」


 突然の問いかけ、そして嫁の声がまあまあでかく、迫力もあったからだろう。その知らないおじさんは、びっくりした様子で少し仰け反ったが、


 「あっ。お、おいしいですよ。わたしは、これ美味しかった。そう思いますよ」


とニコッと笑って答えてくれた。


 「へー。ありがとうございます!」そう言って嫁はおじさんに会釈をし、そのおじさんと同じ商品をカゴに入れた。



 買い物後、私は嫁に言った。


 「そんなに食材について知りたかったら店員さんに聞けばよかったのに」

 「え~っ!そんなこと、怖くてできない」

 「……」


 『どっちかって言うと、知らないおじさんのほうが怖いんじゃないかな』



 嫁は人が怖いと言う。でも嫁と話をした人の多くは嫁を好きになる。あの知らないおじさんも、嫁に話しかけられてちょっと嬉しそうだった。


 無垢で正直な嫁の人柄を感じるのだろう。


 今度、嫁は誰に話しかけるのかな?

 あーうちの嫁はおもしろい。

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