第2 話 ビックリー
結婚して半年後、私たちは栃木へ、2泊三日の小旅行をした。
那須動物王国へ行った時、売店に沢山の紙が風で舞っているドームを見つけた。結構大きなドームだった。舞っている紙を一枚とると、それがクジになっていて当たれば景品がもらえるらしい。
沢山のかわいらしいぬいぐるみが、景品として棚に並べてあった。
嫁はくじを引いてみることにした。嫁がドームに手を入れると、一枚の紙が、紙の方から嫁の手に入って来たらしい。それを店員に渡すと、店員はちょっと慌てているようすだ。そして一言。
「あっ、あの……一等出ましたっ!」
季節はずれの平日、天気はくもり、私の記憶では客より店員の数の方が多かった程、空いている日だった。
店員の声は店に響いた。
しばらくの沈黙の後、責任者らしきおばさんが、大きなセントバーナードのぬいぐるみを持ってきた。
嫁が受け取ると、嫁はぬいぐるみでかくれてしまい、足の膝から下しか見えないほどの、大きなぬいぐるみだ。
出口で係員の方が
「当たったんですか?日曜の混んでるときにたまーにあるけど、平日では初めてですよ」と声を掛けてくださった。
帰り道、車の後部座席をミラーで見ると、まるで人のように大きなぬいぐるみが座っているなと思ったのを今でも憶えている。
嫁はあまりに驚いたので、そのぬいぐるみに「ビックリー」と名前をつけた。
*
あれから約10年、ビックリーは今も嫁のベットの傍らにいる。
薄汚れてきているのは仕方ないこと。
先日、私は嫁に訊いた。
「このぬいぐるみ、いつまで持っているつもり?」
「いつまでって。ずっと持ってるよ。たとえ80歳になっても持ってるよ。だってこれは神様がわたしの味方だっていう証拠だもん」と嫁は応えた。
*
『80歳になってもかぁ。嫁が80歳になるころは、私は完璧に墓の中だな』
ビックリー、おばあちゃんになった嫁をよろしく。
そして神様、これからもずっと嫁をよろしく。
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